第6話 『おわりの詩』
ある日、ぼくは夢の中で天使に聞きました
「人は死んだ後も、夢を見るのですか?」
「もちろんです。というよりも、もうずっと夢です。」
「すばらしい、夢、見放題なんですね!!」
「まあ、そうだと言えば、そうですね。でもね・・・」
天使は右手を上げて言いました
「人の世で、罪ではなくても、何か良心に違反する行為を行った方は、それなりに、つらい夢を見ます。その度合いが、いやこれはちょっとひどいなあという方は、つらく苦しい夢を見続けます。 それが「地獄」なのですよ。」
「なるほど。そこから目覚めることはないのですか?どのくらいが目安ですか?」
「それは、企業秘密というべきものです。そこがわかったら、人間はますます努力しなくなるでしょう?」
「ひどいかどうかの度合いは、誰が決めるのですか?」
「それも、秘密です。それがわかったら、人間はひいきをするようになるでしょう?」
「ゲーテ先生は、その人間が努力をしてさえいれば、天子が救ってくださることができる、ように言っていました。ファウストさんも、民衆本や、マーロウさんには救われなかったけれど、ゲーテさんによって救われました。ただし、相当他力本願でしたが。かなり努力しても救われなかった方と、まったく努力が足りなくて救われなかった人と、助けてくれる人がいなくて救われなかった人とは、どのあたりで、どのくらい、その、悪夢の差が出るのでしょうか?方程式がありますか?」
「それは、むつかしい問題です。救われなかった人・・つまり悪夢から覚めない人は、努力が足りなかった、とは決して言いたくはありません。私たちは、ほんとうは、すべての人間を悪夢から救いたいのです。天使はそれを望むのです。ただ・・・・」
「ただ? ですか?」
「ええ、いま人間の悪夢の数は無限大に増加中なのに、天使はあまりに数が少ないのです。天使の数を増やすには、ピュアな人間の魂がもっと必要なのです。でも、それは人間の悪夢を少なくしたい天使の夢とは、うまく合致していません。人間は毎日次々に、悪夢の元を生み出してばかりいます。あなたもですけれど。もっと、人々を楽しくさせるような生活の仕方をしなければなりませんでした。今までも、今もね。このままでは、あなたは地獄行きですね。そういえば、明日の晩は、地獄の使者があなたをスカウトに行くとか言っていましたよ。では、いい夢を。おやすみなさい。」
「あの、ちょっとまだ、全然腑に落ちないので・・待ってください・・・あ・・・。」
ぼくは、自分に向かって次ぎ次に弓矢とか、槍とか、光線銃が撃ち込まれるのを感じました。
痛い痛い!
いや、これはまずいぞ、本当におしまいだな、と・・・
ぼくは目覚めました。
なので、夜寝るのは、ほんとうに恐ろしいのです。
永遠の悪夢が、今夜始まるかもしれませんから。
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