架線と雪空

綿菓子のカケラのような雪が舞う中、

ボディに錆がついた路面電車が、

僕の前を走っていった。


彼と僕の間には何台もの車が通ったというのに、

まるで僕と電車だけがそこにいたような、

そんな一瞬だった。


僕はわざわざ振り返って、

彼の後ろ姿を眺めていた。

少しずつ遠ざかっていくのに 目が離せなくて、

彼は僕に何の興味もないと言わんばかりに、

当たり前に去っていくのだけれど、

僕はそこに憎しみのような感情を抱いて、

それでようやく気がつくのだ。


僕は、路面電車に何を重ねたのだろう。

誰を重ねただろう。


僕は無理矢理に前を向いて、歩き出す。

前を向けば、次の電車がやってくる。

それを どんな気持ちで迎えるだろうか。

ただ見遣るのだろうか。


僕の前、雪の降る中に次の電車がやってくる。



              ~架線と雪空~


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