第2話

二月三日(金)一九時 自宅にて


 今日は二月三日、節分の日だ。そのため、世の中は盛り上がっており、我が家もまた、その一つである。

「福はーうち♪」

「おにはーそと♪」

「痛いよー。もう悪さをしませんから許してください(泣)」

 自宅にて職場の後輩と娘と一緒に豆まきをしている。私と娘で鬼役の後輩に豆を投げる。娘が後輩と豆まきをしたいと強請るものだから、急遽、後輩を招いてやることにした。後輩は急なことにも関わらず『娘さんのためなら良いですよ♪』とすぐに了承してくれた。後輩のそういうところには仕事でも助かっているし、惚れたところでもある。

「ふぅ、悪いお姉さん鬼もいなくなったことだし、次は先輩も鬼役をやってみましょう」

 後輩は私に鬼の仮面を渡し、役割を交代した。

「それでは悪いお母さん鬼に、鬼はーそと」

「ふくはーうち」

「痛いよー。わー止めて。そんなに虐めるなら、食べちゃうぞー♪」

「わー逃げろ」

 娘と後輩が豆を投げるものだから、仕返しをすべく娘と後輩を追っかけた。昔からの風習である節分で盛り上がったのは何時以来だろうか。前は夫が鬼役をして、私と娘で夫に豆を投げていた。あの時も、今日のように盛り上がっていた。今はその夫が居ない。そのため、二度と無い思い出として、私の胸の中に残っている。しかし、今は夫に代わり、後輩が居る。彼女は家庭事情を理解して、今日の豆まきを了承してくれた。

「もう豆まきはこれくらいに料理でも食べましょうか。すでに出来ているから食卓に並べ終えるまで、豆の片づけをお願いね」

「分かりました。じゃあ、片付けようか」

「うん♪」

 後輩と娘は撒いた豆を手で片づけた。その間、私は豆まきの前に調理していたちらし寿司と鰯のつみれ汁、豆サラダを食卓に並べた。

(うん、自分でも良い出来だな。特にちらし寿司にはハートや星に模った人参を飾っているから、綺麗だな)

「先輩、片づけが終わりました。うわー美味しそうです」

「頂きましょうか。では、頂きまーす」

 後輩と娘は喜びながら、ちらし寿司を食べた。最後に、後輩は豆を勢いよく食べたため咽むせて、私たちを笑わせた。

(本当に誰かと食べる食事は美味しいし、この賑やかな時間がこれからも続いてほしい)


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二一時


 食事を終えて、食卓を片付けを済ませた。少し休んで、後輩は娘を風呂にいれてくれた。その間は私はリビングで休んでいた。

 子育て苦労する私を気遣ってくれて、本当に助かる。以前は職場の後輩と見ていたが、最近は娘と同じように後輩を家族のように見るようになった。夫が他界して空いた心の隙間を後輩は埋めてくれる。こうなると『家族とみなす』ではなく、『家族そのもの』と言った方が適切。

(あぁ、後輩と過ごす時間が幸せ)

 しかし、彼女は私と違い、若いうえに独身。私が彼女の輝かしい将来を奪っていいか。最近はそれで不安になる。ただ、彼女も私を愛してくれる。心の中で葛藤が起きるたびに、心に不安が募る。

「お待たせしました。娘さん、お布団に寝かせました」

「ごめんね、豆まきだけでなく、入浴と寝かしつけまでしてもらって」

「そんな事ないですよ。招いて頂いたお礼ですよ・・・。現に、最近の先輩は女手一つで娘さんを育てている上に、仕事で忙しいですから・・・。最近、プロジェクトリーダーの美幸さんが言っていましたよ。『山谷さんの頑張りには助かっているけど、体調を崩しそうで不安』と。なので、外の者ですが、少しでも先輩のお力になりたいので、困ったことがあれば私に言ってください」

 後輩のその一言に私は嬉し泣きをした。そんな私を見て、後輩はとても動揺した。あぁ、こんな後輩、いやこのような素晴らしい人に出会えた私はなんて幸せだろうか。

「すいません、変なことを言って・・・。」

「そんな事ないよ。とても嬉しいよ。むしろ、感謝しているよ」

「そう言ってもらえて光栄です♪」

 この後、後輩は現在の彼女の住まいであるアパートに戻った。私は入浴を済ませ、寝室の布団に入った。娘は気持ち良さそうに寝ている。後輩の『少しでも先輩のお力になりたいので、困ったことがあれば私に言ってください』という言葉を頭の中で思い出した。そういえば、付き合いたての頃に夫も同じ事を言っていた。研究室の同級生と馴染めなかった私を夫はいつも優しく接してくれて、同級生との懸け橋になってくれた。今でも、その同級生とは連絡を取っている。後輩は夫と似ている。

(あぁ、なんて奇跡なんだろう)

 そう心の中で思いながら、私も静かに眠りについた。


おわり

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