第六十七話 歪み



 時を遡ること昨夜――――

 ミネルバが中庭から追い出され、程なくしてマキトたちも、王宮を後にしようとしていた。

 セドに見送られて宿屋に戻ろうとしたその時、またしても現れるのだった。


「おい、何故キサマのような小汚い庶民が、王宮から出てくるんだ?」


 エルヴィンが、実に忌々しそうに顔をしかめながら、マキトたちを睨みつける。対するマキトたちは、面倒なヤツが現れたと言わんばかりに、ゲンナリとした表情でため息をつくのだった。

 それを見たエルヴィンは、更に表情を歪ませる。


「なんだその顔は! 質問一つにも応えられないほどの礼儀知らずなのか?」

「……どーもすみませんでした」


 態度は気に食わなかったが、言ってること自体は正しいと思い、マキトはとりあえず頭を下げる。対するエルヴィンは、ふんと鼻を鳴らしながら腕を組み、上から見下ろすような態度を取ってくる。


「まぁ良いさ。今回だけは特別に許してやる……と言いたいところだが、キサマを許すわけにはいかんな。珍しいドラゴンも見つからなかったし、今の僕はすこぶる機嫌が悪いんだ」


 そしてビシッと指を突き出しながら、エルヴィンは高らかに叫ぶ。


「僕を足止めさせた罰として、その妖精とフェアリー・シップを置いていけ。これは命令だ! その魔物二匹を献上するだけで、この場を見逃してやると言っているのだ。どう考えても安いモノだろう?」

「断る」


 マキトから即座にぶった切るように言い放たれ、エルヴィンは硬直する。そして歯をギリッと鳴らしながら、エルヴィンは顔を真っ赤に染めていった。


「薄汚い庶民が……いい加減にしたほうが身のためだぞ!」

「いい加減にするのはお前だ」

「ああん?」


 突然マキトの後ろから割り込んできた声に、エルヴィンは邪魔をするなと言わんばかりの睨みをきかせる。

 しかし、前に出てきた人物を見た瞬間、呆気にとられること数秒、エルヴィンは見下した笑みを浮かべてきた。


「これはこれは、セド様ではございませんか。まさかまだ王宮にいらっしゃったとは、夢にも思いませんでしたよ」

「相変わらずの態度だな、エルヴィン・マクレッド。私のことはともかく、貴族が庶民を下に見るという姿勢は、早急に治すべきだと思うが?」

「……ハッ! そう言うキサマこそ、誰に向かって口をきいているんだ? 魔力を持たない出来そこないに、偉そうなことを言われる筋合いなどない!」


 エルヴィンのセドに対する物言いは、完全に王族に対するそれではなかった。

 傍で聞いていたマキトでさえ、流石にコレはマズいだろうと思った。セドはまだ王族の地位に立っていることは確かなのだから。

 しかしセドは無言のまま、エルヴィンをジッと見据えている。怒りを押さえ込んでいるのか、それともなんとも思っていないのか、マキトには分からない。


「今ならここだけの話とすることができる。今日のところはお引き取り願おう」


 淡々と告げるセドに対し、エルヴィンは吹き出して大笑いする。


「ハーッハッハッハッ! それが人にモノを頼む態度か? 自分の立場すら弁えていないとは、やはり王家を追われた愚か者は伊達ではなかったということか。せめてその無能な頭を地べたにこすりつけ、必死に泣きじゃくりながら懇願するぐらいのことはしてみせろよ、この身の程知らずの負け犬が!」


 この瞬間、マキトは頭の中がスーッと冷えていく気がしていた。

 言い過ぎにもほどがあるだろうと思いながら、マキトはエルヴィンを睨みつける。アリシアやコートニー、ラティたち三匹も同じくであった。

 そしてセドもまた、少しばかり表情を歪ませていた。しかしエルヴィンはそれを見るなり、貶すような表情で小さなため息をつく。


「どうやらこの僕に従うつもりはないようだな。おいお前たち、このロクデナシを取り押さえろ。女王様にキサマの身柄を突き付けてやる!」


 エルヴィンは後ろに控えている護衛の兵士たちに命令する。全員が青ざめた表情でガタガタと震えていたのだが、エルヴィンは全く気づいていない。

 勿論マキトたちはちゃんと気づいており、大丈夫かなと心配にさえなっていた。そんな彼らの表情を見たエルヴィンは、まるで子供を宥めようとする優しい笑顔を向けてきた。


「そう悲観することはない。むしろ光栄に思いたまえ。僕の華々しい未来のため、キサマらは小さな捨て石として、この僕の役に立てるのだからな!」


 それを聞いた瞬間、マキトたちはツッコむ気力も失うくらいに脱力する。それに対してエルヴィンは勝ち誇った笑みを浮かべ、改めて護衛の兵士たちに命じた。


「さぁ、早くこの愚か者たちを捕らえて……」

「失礼いたします!」

「…………って、あれ?」


 護衛の兵士二人が、後ろからエルヴィンを羽交い絞めにして持ち上げる。流石のエルヴィンも、この展開には戸惑わずにいられなかった。


「お、お前たち、これは一体どういうことだ!?」

『どうかお許しください、セド王子様! それでは失礼いたしましたあぁーっ!』

「待て! 何故逃げ出すんだ? この僕が何をしたというのだっ?」


 護衛の兵士たちは言葉を見事に揃えつつ、エルヴィンを抱えて王宮を去った。

 マキトたちが揃って呆然と立ち尽くしているところに、オースティンが駆けつけてくる姿が、エルヴィンの視界に入ったような気がした。



 ◇ ◇ ◇



「――そしてこの全てをパパに話したら、僕は閉じ込められてしまった」


 家に担ぎ込まれたエルヴィンは、護衛の兵士たちを罵倒した後、当主である父親の元へ泣きながら駆け込んだ。

 事の次第を話し、マクレッド家の力でやりかえしてくれ、と頼み込んだ。


『こん……の、バカ息子があああぁぁーーーっ!!』


 エルヴィンは父親からゲンコツをもらい、そのまま強制的に謹慎扱いとなった。再び護衛の兵士たちによって部屋に放り込まれ、固く施錠され、常に見張りがつくという状態となった。

 当主から直々に命令されたため、エルヴィンがどれだけ命じても、全く聞く耳を持たなくなってしまった。もっともこれには、前々からエルヴィンの大柄な態度に不満を抱いていた、という想いが爆発したからでもあるのだが、当然本人は知る由もなかった。


「恐らくパパもあのロクデナシ王子に脅されているんだ。そうでもなければ、パパが僕を怒鳴りつけるなんてあり得ないさ! 人の家族を傷つけておいて、さも当然のような顔をする。実に嘆かわしいことこの上ない。少しはこの僕を見習ったらどうなんだ!」


 あくまで自分は真面目な好青年なんだと思い込むエルヴィンは、憤慨しながらも周囲を見渡す。隠れられそうな場所が未だ見つからないのだ。

 太陽も完全に上り、町が賑やかになっていた。

 林の中で目立たないとはいえ、いつ誰かに見つかるか分かったモノではない。


「くそっ、魔導師のようにローブでも来てくれば良かった……あっ!」


 その瞬間、エルヴィンの頭の中に、とある人物の名前が思い浮かんだ。


「思い出したぞ。確かビーズとかいう見放された魔導師がいたハズだったな。あのウワサが本当だとすれば……」


 宮廷魔導師の座を未だ諦めておらず、この町のどこかで研究を続けていること。そして王宮近くにある林には、不気味な小屋が建っていること。

 二つのウワサがエルヴィンの中で、ビーズという一人の男に結びついた。

 きっと正しいに決まっていると謎の自信に満ちており、そこへ向かおうとしたところで、エルヴィンは更なる問題を見つけた。


「ここからまた王宮に向かって歩くのか……厄介だな、僕の家を横切る必要が出てくるワケだ。くそっ、大体どうして王宮の傍の林に小屋を建てたのだ? この僕が困ってしまうではないか! 気が利かないとはこのことだな」

「それはそれは、どうもすみませんでしたね」

「全くだ……えっ?」


 突然姿を現れた第三者の声に、エルヴィンは驚いて飛び退く。そこにはよれよれの白衣を身に纏い、色白でいかにも不健康そうな中年間近の男が立っていた。

 エルヴィンは驚きながら、その白衣の男に問いかける。


「キ、キサマはもしかしてビーズか? 王宮の魔導師を追い出された……」

「追い出されたかどうかはともかくとして、おっしゃるとおり、私は確かにビーズと申しますが……」


 白衣の男、ビーズが名乗った瞬間、エルヴィンの表情が明るくなる。


「そうかそうか。キサマの気が利かない部分は、もうこの際どうでも良い。キサマの住んでいる場所に僕を匿え。マクレッド家の跡取りであるこの僕の命令だ。もし背けば、どうなるか分かっているだろう?」


 エルヴィンの脅し同然なお願いに、ビーズはむしろ納得するかのように頷いた。


「なるほど、アナタはマクレッド家の息子、エルヴィン様でしたか。匿うのは別に構わないのですが、先客がいるのでご容赦いただければと」

「やかましい。キサマらの都合なんぞ知ったことか。良いからさっさと案内しろ。その先客とやらは僕が追い出してやる。キサマへのせめてもの礼としてな」


 あくまで高圧的に接してくるエルヴィンに対し、ビーズは悩み出す。


「うーん、しかしですねぇ……」

「ゴチャゴチャ言ってないで早くしろよ、このノロマが!」


 感情的に叫ぶエルヴィンに、ビーズはやれやれと言いながら歩き出すのだった。



 ◇ ◇ ◇



 今日も賑やかな冒険者ギルドにて、マキトたちはクエストを選んでいた。

 選ぶ基準は、遠出ができるかどうかの一つだけである。それもできるだけ早く選んでしまいたいと思っていた。

 モタモタしていたら、また何か面倒なことに巻き込まれるのではないかと、マキトを除く三人が危惧していたからだ。

 したがってマキトは現在、少しばかり急かされている状況にあり、あまり良い気分とはいえなかった。状況が理解できないわけではないが、それでも少しはゆっくり選んでも良いんじゃないか、という気持ちもあるのだ。

 マキトが小さなため息をついていると、ラティがランクDの掲示板から、一枚のクエスト用紙を剥がしてきた。


「ねぇねぇマスター、このクエストなんて良いんじゃありませんか?」

「どれ?」


 マキトはラティが持ってきたクエスト用紙を覗き込む。

 そこにはこう書かれていた。

 パンナの森から、更にずっと南西に向かった先にある小さな湖。そこのどこかに自生している薬草を三本以上採取し、ギルドまで持ち帰ること。この薬草は魔物がよくエサとして食べており、見つけること自体が割と困難になってくる。

 そこまで読んだマキトたちは、地図でその湖の場所を確認してみるのだった。


「へぇー、湖までは結構遠いんだな。一日で行って帰ってくるのは無理か」

「でも好都合なのです。これならピッタリなのですよ」

「そうだな。じゃあこれにするか」


 マキトたちはセドたちに話した上で、受付を済ませてきた。


「受けてきたぞ。期限は一週間以内だってさ」

「よし、じゃあ早速行こう……っと、その前にギルドマスターにも伝えておこう。何かあるかも分からないからな」


 セドは受付嬢に、ギルドマスター宛に伝言をお願いした。マキトたちと泊りがけでクエストに出かけてくると。

 ギルドでも王宮の騒ぎは耳に届いていたらしく、色々と大変ですねと、受付嬢に気を使われるのだった。

 その時マキトは、アリシアが頬を染めてボーッとしていることに気づいた。


「……アリシア、大丈夫か?」

「ふえっ!? あ、だ、大丈夫だいじょーぶ、あははっ!」


 どう見ても大丈夫と言う感じはしない。そう思ったマキトは、今朝の騒ぎの光景が頭の中に蘇ってくる。


(さっきのは気にしなくて良いって言ってたし、別に忘れても良いんだよな?)

(うぅ、なんか恥ずかしい……というかすっごい気まずい……)


 アリシアもマキトと同じことを思い出していた。どうしてここまでザワつくのかが分からない。そして全く気になってない様子のマキトを見ると、何故か途轍もなくため息をつきたくなる。

 これに対して何も言えない、というか言葉が思いつかないのがもどかしい。同時に浮かんできたのは、どうして自分がこんなにも気にしなければいけないのかという、純粋なる疑問。試しに考えてみたが、何も答えは見つからなかった。

 結局アリシアは、ただ単に心の中で慌てふためくだけの結果で終わってしまう。

 そしてそこに、セドが戻ってくるのだった。


「済まない、待たせてしまったな……って、どうしたんだ、あの二人は?」


 戻って来たセドの問いに、コートニーが苦笑しながら答えた。


「なんでもないよ」



 ◇ ◇ ◇



 一台の馬車が王都の中央通りをゆっくりと横切っていく。人は多かったが、誰も馬車に目もくれようとしない。

 御者台にはビーズが、そして荷台の中にはエルヴィンが隠れていた。

 ビーズが隠れ住んでいる小屋は、西側の林にあるとのことで、東側を逃げていたエルヴィンは、町を突っ切る形となった。そこでビーズが用意した馬車の荷台に身を隠し、事なきを得たというワケだ。

 その際にエルヴィンが、荷台の狭さに対して文句を言っていたが、ビーズはどこ吹く風のように、全て聞き流していた。

 そして馬車は林の中へと入り、人の声が全く聞こえなくなる。

 段々と薄暗くなっていき、馬車を動かす音だけとなり、妙な不気味さを醸し出していること数時間。遂にビーズが住んでいる小屋に到着したのだった。


「ただいま戻りました。すみません。ワケありなお客様を連れてきました」

「お前はどいてろ!」


 ビーズを押し退けながら、エルヴィンがソファーに座る人物に向かって叫ぶ。


「僕はエルヴィン・マクレッドだ。今からここは僕の根城だ。キサマのようなヤツを置いておくわけにはいかん。さっさと出ていけ!」

「ふぅん、マクレッド家の跡取り息子は、随分と命知らずなのですね」


 声の主は女性だった。それもエルヴィンと引けを取らない高圧的な態度で。

 エルヴィンはギリッと歯を噛み締めながら、ずかずかとソファーに向かってその人物の姿を拝んでやろうとする。


「何だその口の利き方は! キサマこの僕を誰……だと……」


 回り込んで人物の正体を見た瞬間、エルヴィンの表情は驚愕に包まれる。

 ソファーに座っていた人物がゆっくりと立ち上がり、サラサラで煌びやかな金髪をかき上げながら、エルヴィンを見据える。


「そーゆーアナタこそ、我が王国に第二王女に向かって、その口の利き方はどうかと思いますわよ? こんな状況でなければ、アナタのお家なんてカンタンに潰せたのに……運が良かったですわね!」


 一言一言が、エルヴィンの耳を通って、脳に直接刺激してくる。体の震えが全く止まらない。止めどなく冷や汗が頬を伝っていく。できることなら今すぐ逃げ出したいとすら思えてくる。

 しかしそんなことをすれば、間違いなく一環の終わりだと、エルヴィンは何故かそう思えていた。

 のどがカラカラに乾くのを感じながら、エルヴィンは必死に言葉を紡ぎ出す。


「ミ、ミネルバ……様?」

「ようやくお気づきになりまして? まぁ別に謝罪とかは結構ですわ。今はそんなことを気にしている場合では……」


 その瞬間、エルヴィンは大きくジャンプして後ろに下がり、同時に跪いて地面に両手をつきながら叫んだ。


「申し訳ございませんでしたあああぁぁーーーっ! い、命だけはお助けを!!」


 見事な土下座の姿に、思わずミネルバは目を丸くしてしまう。突然どうしたのだと問いかけたいが、言ったところで耳に入らないことは目に見えていた。

 しかし、いつまでもこのままにしておくわけにもいかない。恐怖に怯え、震えが止まらないオースティンに、ミネルバは話しかけてみることにした。


「……とりあえず立ちなさい。謝罪はいらないって言ったでしょう?」

「ありがたき幸せ! ミネルバ様の寛大なお心に、このエルヴィンは感謝の言葉もございません!」


 とりあえず声は通じるようだと、ミネルバは内心で安堵した。


「それではエルヴィン。アナタがここに来た理由を話してもらえますこと?」

「はいっ! 勿論全てをお話させていただきますっ!」


 多少の混乱が抜けない中、エルヴィンはこれまでの出来事を語る。

 そして、全ての原因である(と、本人が思い込んでいる)相手のセドに、全ての恨みを込めた復讐をしたいと願うのだった。

 怒りに震えるエルヴィンを見て、ミネルバはニヤリと笑みを浮かべた。

 これは利用価値がある。さっき自ら示した態度を見ていれば、なんでも言うことを聞いてくれるだろうと思えていた。

 いざとなったら、この二人を身代わり人形にして逃げることも考えながら。


「ねぇ……アナタも私たちの計画を手伝いませんこと?」


 怪しく光るミネルバの赤いツリ目に、エルヴィンはどこかボンヤリとした表情を浮かべながら、即座に首を縦に振るのだった。



 ◇ ◇ ◇



「いやっほーっ♪」

「サイコーなのですーっ♪」


 マキトたちは現在、キラータイガーに乗って草原を疾走していた。

 見晴らしが良くて人通りも障害物もないため、まさにスピード出し放題な状況であった。これで空模様が、どんよりとした曇りでなければ最高だったのだが、天気ばかりは流石にどうにもならないと割り切っていた。

 ちなみに疾走しているのはバウニーの父親こと親タイガー亜種である。四人と四匹という大所帯にもかかわらず、親タイガー亜種はなんてことないと言わんばかりに、軽やかな動きを見せていた。


「どうだコートニー、すっげー気持ち良いもんだろ?」

「うん。これは本当に最高だよ!」


 何気に初めてキラータイガーに乗るコートニーは、その爽快さに感動する。それを見たマキトは実に満足そうに笑い、改めて乗せてもらっている親タイガー亜種に語りかける。


「ありがとうな。この調子で、湖まで頼むよ」

「ガウッ!」


 任せておけ、と親タイガー亜種が威勢よく答える。

 ちなみにキラータイガーに乗って移動する案は、マキトが考えたモノだった。

 西の街門から王都を出発した後、まず最初にパンナの森を経由して、親タイガー亜種の元へ訪れた。アリシアとコートニーを紹介し、南西の湖に行きたいから乗せてほしいと、マキトが長タイガーを説得したのである。

 それぐらいならお安いご用だと親タイガー亜種は頷き、今に至るというワケである。


「ねぇねぇ、見てよマキト! ライドホークの群れが飛んでるよ」


 アリシアが指を差した方向には、一昨日戦った魔物に酷似した鳥が飛んでいた。色は確かに違うが、外見が殆ど同じだったため、マキトは首を傾げる。


「……キラーホークじゃないの?」

「似てるけど違うよ。殆ど凶暴性がないし、狙うのは魚や虫が殆どなんだ」

「へぇー」


 そんなマキトとアリシアは、もうギクシャクしている様子はなかった。そして互いに意識している様子も全くなかった。

 それぞれが親タイガー亜種の背に乗った瞬間、アリシアはマキトの腰に、自然と抱き着いていたのだ。その姿にセドとコートニーは目を丸くしたが、当の本人たちはそんなに驚いてどうしたんだと、首を傾げるばかりだった。


「ま、あの二人らしいかもだけど……」


 そんなコートニーの呟き声は、風に乗ってかき消されたのであった。


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