100縁ショップは返品不要!

ちびまるフォイ

縁なんて取り戻せるでしょ

近所にできたショップにやってくると、高級車から家電までずらりと並んでいた。

いったいこの店はなんなのか。

品ぞろえにまるで統一感がない。


「100縁ショップへようこそ。なにかお探しですか?」


「この店の品はすべて100円なんですか? 破格ですね」


「いえいえ、100縁。人との縁で売られています」


「はぁ?」


よくわからないが、普通に買うよりはるかに安い値段なのは確かだ。

一番近くにあったポルシェを買うことに。


「これをください」


「100縁いただきます」


あっという間に決済完了。

ローンを組むとか、わずらわしいことは一切ない。最高だ。


家までぴかぴかの新車を走らせて気分が良かった。


「良い買い物をしたな。また今度来よう!」


いい気分でいたが、支払いに使ったものがなんなのか気付いたのは数日後。




「……変だな。前に比べて連絡がぜんぜん来ないぞ」


スマホを開けても友達からの連絡や知人からの連絡が来ない。

前は休日になるとほぼ確実に来ていたのに。


というか、連絡先から消えている。


「100縁って、そういうことか。人との縁と交換してたんだな」


からくりがわかったところで惜しい気持ちにはならなかった。

人との縁なんて放っておけばだんだんと消えてしまう。

それを形ある高級車というものに変換できただけでいいことだ。


「ようし! これからもガンガン行くぞ!!」


また100縁ショップへと足を運んでは商品と交換した。

普段ならとても手が届かない高級品をここでは買うことができる。


縁がつきたら、また補充すればいい。簡単だ。


パーティにでも参加して、連絡先を交換して、縁を作る。

金をかせぐよりもずっと楽で手早く増やせる。


そうして増やした縁を交換して、俺の家はどんどん豪華になった。





「お客様、縁が足りません。99縁しかお持ちになってないですね」


「ちっ……また補充か」


景気よく使っていると縁はすぐに尽きてしまう。

しかたなくまたパーティに参加して縁を作ることにしよう。


「ねぇ君。俺と連絡先交換しない?」

「あなたの噂聞いているわ。どうせ交換してもすぐに消すんでしょ?」


「俺と連絡先を交換しようよ」

「やだよ。お前、連絡先リストを増やしたいだけだろ」


「頼むから俺との縁を作ってくれ!」

「絶対イヤ。あんたが欲しいのは、私じゃないんでしょ?」


縁は少しも増やせない。

頻繁に出入りしている社交パーティだったので俺の悪評が浸透していた。

縁を作るためにいろんな場所へ顔を出していたのがわざわいして、

悪い噂はどこまでも広がって誰も縁を築こうとしない。


"どうせあいつはすぐに縁を切る奴だから"


たったそれだけの噂がここまで影響するとは思わなかった。


「……やれやれ。酒でも飲みながら愚痴るか」


携帯電話を開いて連絡先リストを見る。

まっさらになったその画面を見て、じわじわと後悔が広がる。


「そうだ……全部ものに変えたんだっけ」


昔からの友達も、気になっていた女の子も、メル友も。

なにもかも縁を変えてしまったんだ。



もし、今、俺がここで死んだとしても誰も気づかない。



「い、いやだ……俺は……こんな孤独になっていたのか……!」


怖くなって100縁ショップへ駆け込んだ。


「返品します!! ここで買ったものぜんぶ!

 返品するから失った縁を取り戻させてください!!」


「いいんですか?」


「早くしてくれ!!」


「かしこまりました」


高級車も大型テレビも虎の毛皮も、ここで買った何もかもが返品された。


「返品を受け付けました。縁も戻しました」


「ああ、よかった」


安心して携帯電話の連絡先を見てがくぜんとした。

リストに表示されている名前はまるで身に覚えがない。


「これは……誰!?」


「一度失った縁は取り戻すことはできません。

 ですから、新しい縁を代わりにいれておきました。

 数じたいはあっているでしょう?」


「そんな……」


まったく知らない人との100縁と、友達の100縁とは意味が違う。

けれどもう縁を取り戻すことは二度とできない。


小さいころのバカ話をする友人も、困ったときに相談する先輩もいない。

縁を取り戻したところで俺は孤独だった。


「もうだめだ……」



※ ※ ※


警察署は今日も大忙しだった。

最近になって急に詐欺事件が増えてその処理に時間を取られる。


「署長! またです! またあの詐欺師です!」


「あの野郎! またやりやがったか!」


赴任したばかりの新人刑事は不思議に思った。


「あの、これだけ大っぴらにやっているのにどうして捕まらないんです?

 被害者の話とか聞けば足が付きそうですけど」


「ああ、そうだよ」


「だったらどうして……」


署長は頭を悩ませた。



「あの野郎、いったいどうやったか知らねぇが、

 詐欺が終わるとキレイさっぱり縁を消しやがるから足がつかねぇんだ。

 いったいどういうからくりなんだ」

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