第44話 イガミ
いつからだろうか、夢を諦めたのは―――かかえきれない夢を持ったが、叶えたいのはどれだかわからなくなった。そしていつしか、コンビニのバイトに成り下がっていった。
いつか、人生は幸せになれるものだと信じていた。けれど、実際はこんなものだ。そう自分に言い聞かせ、ここまで歩んできた―――
明日はX'mas。世間のリア充どもはイチャつく。俺は三十で。ある程度の話相手はいるものの、友人はほぼ皆無だ。
まあいいや、そう思い近くのコンビニに入る。いつしか、自分のバイト先と同じチェーン店のコンビニにしか入らなくなっていた。
「うー寒……」
一人言を呟き、イージーリスニングのBGMを聞き流しながら弁当売り場に向かう。300円ののり弁を適当に選び、レジに向かう。
「温めはどうしますか?」
レジの顔立ちの整ったお姉さんが聞いてくる。
「はい」、と返しながら俺はあんたに暖めて貰いたいわ、とか思いながら弁当を受け取る。
「ありがとうございましたー」背中に声を受けながら店を出る。
「あー、マジかー……」
空を見上げると、遥か彼方からは白い粒が降ってきていた。
「彼女もいないのにホワイトクリスマス……ってか、積もらないといいけどなー」
基本的に徒歩と自転車の俺にとって、アイスバーンとなれば死活問題だ。チャリで滑って転んで死んだりしたらシャレにならん。ガキんころは雪だゆきだと、騒いで嬉しかったものだが。今は大して嬉しいものでもない。
しんしんと降る雪の街を歩く。それだけで違う世界のようで街並みが違って見える。
ふと、
視界がぼやけて、周りが霞んでいく。一体……俺は誰だっけ……。意識が不明瞭で、次第に体にも力が入らなくなる。
死んだら駄目だよ、と幼い頃の母の声が響くが、それも次第に霞んでいく。
自らの記憶がよみがえる。これは、走馬灯なのか、それともなにか記憶の再生なのかわからない
なにか昔、子供の頃の高熱の時の感覚みたいで……世界が廻ってて……
もう駄目かもしれない、なんて感じた。
どこかでなにかが壊れる音がした、気がした
「あ」
次の瞬間、独りの青年が倒れていた。
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