第43話 イガム



いつからだろうか、夢を諦めたのは―――かかえきれない夢を持ったが、叶えたいのはどれだかわからなくなった。そしていつしか、コンビニのバイトに成り下がっていった。

いつか、人生は幸せになれるものだと信じていた。けれど、実際はこんなものだ。そう自分に言い聞かせ、ここまで歩んできた―――


明日はX'mas。世間のリア充どもはイチャつく。俺は三十で。ある程度の話相手はいるものの、友人はほぼ皆無だ。

まあいいや、そう思い近くのコンビニに入る。いつしか、自分のバイト先と同じチェーン店のコンビニにしか入らなくなっていた。

「うー寒……」

一人言を呟き、イージーリスニングのBGMを聞き流しながら弁当売り場に向かう。300円ののり弁を適当に選び、レジに向かう。

「温めはどうしますか?」

レジの顔立ちの整ったお姉さんが聞いてくる。

「はい」、と返しながら俺はあんたに暖めて貰いたいわ、とか思いながら弁当を受け取る。

「ありがとうございましたー」背中に声を受けながら店を出る。

「あー、マジかー……」

空を見上げると、遥か彼方からは白い粒が降ってきていた。

「彼女もいないのにホワイトクリスマス……ってか、積もらないといいけどなー」

基本的に徒歩と自転車の俺にとって、アイスバーンとなれば死活問題だ。チャリで滑って転んで死んだりしたらシャレにならん。ガキんころは雪だゆきだと、騒いで嬉しかったものだが。今は大して嬉しいものでもない。

しんしんと降る雪の街を歩く。それだけで違う世界のようで街並みが違って見える。


ふと、既視感デジャビュを感じて強い目眩がした。

なにもかもが夢のような感覚に意識が覆われてゆく。微睡みと覚醒の隙間のような

もう際限なく繰り返してるような、胡蝶の夢のような。俺は一体……何をやって……

駄目だ、早く行かないと。還らないと……

なんだっけ、子供の頃の高熱の時の感覚みたいで……世界が廻ってて……


感情や思考が錯綜して混乱している。

意識が情報の海に飲み込まれてゆくみたいに

次第に意識が混濁してゆく。

「あ」

次の瞬間、独りの青年が倒れていた。


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