第103話 里帰り(その8)

「それにしても…」


 B子が境内を見回す。


「女性の参拝客が多いですね」

「こんな山奥に物好きな……」


 毒づくA子はすっかりやさぐれていた。


「もしかして、あれ」


 C子が本殿がある奥の方を指した。

 その手前には本殿を一回り小さくしたような社があり、その周りは参拝客で一杯になっていた。


「ありゃ能楽堂だ。正月に巫女舞が催されるからな」

「巫女?」


 ピキーン、というオトマノベを頭に閃かすA子。


「どこ、どこ?」

「巫女、って言ってもなぁ……」


 何故かご主人様は険しい顔をする。


「よく見ると舞台で誰か舞ってます」

「行く」


 すっかり元気になったA子は駆け足で人だかりに向かった。


「うわぁ……」


 能楽堂の前に着いたA子は、舞台の上を見て思わず感嘆の声を上げる。

 その後を追い掛けていたB子とC子もそれを見て同じ反応をした。

 舞台の上では、白装束に身を包んだ巫女が参拝客たちの前で、華麗な神事の舞を披露していた。


「うわぁ……凄い美人」


 B子が巫女の美貌に思わず絶句した。

 舞台の上で神事の舞を演じる巫女は、その妖艶な美貌と華麗な動きでその場にいた参拝客たちの心を完全に捉えていた。

 女性参拝客に至っては揃って頬を赤らめ、その舞と美貌に魅入られて身じろぎ一つしていなかった。


「……あれ、こっち見てウインクした」


 A子は巫女が自分を見ている事に気づいた。


「俺が居たから挨拶したんだよ」


 A子の背後でご主人様が言った。


「へ?」

「あれはここの当主だから」

「当主、って事は……」


 A子が訊こうとした時、神事の舞がちょうど終了した。

 そこでようやく参拝客は妖艶な支配から解かれて我に返った。


「後で紹介する。参拝客の邪魔になるからとりあえず本殿に行くぞ」

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