第45話 危険な登山

「ご主人様、今某女芸人がエベレスト登頂を目指していると聞いて私も登山をやってみたいと思うのですが」

「これまた唐突な」

「でも最近流行なんですよ、山ガールという言葉知りません?」

「いや……しかし登山かあ、小学生の時に箱根の金時山に登ったきりだよ。何処に登る気なんだ?」

「天保山です」


 その名を聞いた時、ご主人様の顔に緊張が走る。


「……その山は……駄目だ、危険すぎる」

「危険?」


 A子の顔が強ばった。


「そんなに危険な山なんですか?」

「ああ。……何も知らずに軽装で登る無謀な輩に絶対的な絶望を与え、ベテランでさえ一歩間違えれば牙を剥く、魔の山と言われているだぞ」


 A子は思わず息を呑む。


「そんな恐ろしい山だったとは……」

「他にもなぁ、切り立った斜面に登山家を絶望する愛宕山や、魑魅魍魎が群れをなす高尾山や」

「……」

「何その冷めた顔」

「…ノリがいいのも考え物ですね」

「う、うっさいっ!」


 なお、天保山とは大阪市にある、標高わずか4.3メートルの日本一低い築山の事である。

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