Amulet

りあん

1章 主人公

第1話 エピローグ或いは主人公の独白

僕は、世界に嫌われていた。


冬、早朝、まだ誰もいない駅のホームで、代わり映えのしない制服を来て、電車を待つ少年。

もしそのワンシーンを写真に収めて、世界中を飛び回る旅人に見せたら、「ささやかでいい写真だ」なんていうのだろうか。「平凡な写真だ」と、鼻で笑うだろうか。

いや、違うなと僕は自称気味に心の中に吐き捨てる。

きっと「良い『風景画』だ」というはずだ。

僕は、そこに居ないのだから。


僕は誰の目にもうつらない。


文字通り、誰の目にも。何の目にも。

僕を見ようとしない人には僕は見えないらしい。それが、僕の生まれ持った神様からのプレゼントだった。

あー、なんて有難いプレゼントだろうか。神様ありがとうございます。どうかそのまま、僕の命まで見えなくしてくれたら、もっと、よかった。


……なんだか可笑しくなってきて、側に落ちていた小石を蹴っ飛ばした。こつん、小さな音は鼓膜を揺らすには弱すぎて、僕には届かない。ホームから転がり落ちて線路の小石の一部となったソイツは、もう二度と僕に蹴られることはないだろう。


きっと、世界は僕が嫌いだった。

だから、こんな意地悪を平気でしたんだ。


無視ほど辛いイジメはないと、誰かが言っていた気がする。相手との関わりを絶ち、相手をいなくしてしまう無視は、その人を本当にいなくしてしまうには一番有効な手段だ、と。


もしそうなら、僕は、やっぱり正しいのだと思う。


さて、5時48分。時間だ。

遠くから線路を軋ませる音が近ずいてくる。

朝日がそれを照らして、橙に染める。

カバンを投げ出す。世界に、あっかんべーをする。そうして、あの小石を追っかける。

世界が、僕がスローになる。

さよなら、世界。どうかお幸せに。




僕は、世界に嫌われていた。

間違いない。世界は僕が大っ嫌いだ。


だけれども。

世界が、反転する。……反転する ?

手が、身体が引っ張られる。どさ、身体が地面とぶつかる。小石……じゃなくて、コンクリート 。触れる体温。僕じゃない暖かさ。僕じゃない、僕じゃなくて……



僕は、世界に嫌われて「いた」。

そうだ、僕はこの日初めて。


「大丈夫か?」


そう、手を差し出した「貴方」に。

はじめて僕を見てくれた「貴方」に。


世界は一つじゃないってことを、教わったんです。

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