第12話 初陣①

俺は、また規則正しい夜型生活に戻った。

夜明け前に帰宅し、昼過ぎに起きる。柳の湯へ行き風呂に入って。アヤメとともにヴァンパイアポリスに出勤する。そんな日常が続いているからだ。


ヤング洋品店から買ってきた服はそれなりに活躍している。ヤング洋品店のお姉さんは、洋服を適当に袋に詰め込んでいたわけではなく、きちんとコーディネート別に詰めてくれたらしい。着る服に頭を悩ませるわずらわしさがないことがありがたい。


名ばかりの研修から1週間が過ぎた。ヴァンパイアポリスでは、待機の事が多いが、書類の整理やパソコンの入力などの仕事も徐々にさせてもらえるようになっている。

この書類整理のお陰でアヤメの仕事がどのようなものかおぼろげながらわかってきた。


今日も出勤時間前に到着しタイムカードを押す。いつもと変わらぬ日常が始まるかと思われたが、そうではなかった。

俺は制服に着替えてデスクに着く。今日はなにか事務所の様子が物々しい。

そこへ執行部の主任半沢さんが入ってきた。

「みんな集まってくれ。」

その一声で、デスクに座っていた捜査官が主任の周囲に集合した。この執行部と呼ばれる部署は、捜査員12名。眷属の捜査員5名。それに主任の総勢18名からなる。


「本日は、かねてより内定を続けてきた霧島会系金田組とヴァンパイアマフィアsucks(ソックス)の一斉検挙を行う。彼らは人間から違法に血液を買い取り。闇ルートで売りさばいて人血中毒患者を増やしている。今年に入って人血中毒で狂暴化したヴァンパイアによる事件が急増。世論のヴァンパイアに対する風当たりも強くなり日本国政府からも事件解決の強い要請があった。」

そこにいた全員が神妙な面持ちで聞いている。

この事件の書類もパソコンに入力していたので、大体の流れは知っていた。


「今日は人間の犯罪者も同時に検挙するので、眷属捜査官も同行する。眷属の者は、ヴァンパイアの捜査官の邪魔をせず、また自身の身の安全を第一に考え行動するように。」

(またそれかよ。言われなくたって、ヤクザだのヴァンパイアのマフィアなんか相手に戦えるわけないじゃん。)


「では、本日。22時、国分町のスタンドバー”ナイトメア”において大口の取引が行われると潜入捜査官から情報が入った。我々は時刻前に店の周囲にて待機、潜入捜査官からの連絡を待ち連絡が入り次第ナイトメアに突入。待機の配置やグループ分けについてはホワイトボードに書いてあるので各自確認すること。今日は、ヤクザ、ヴァンパイアマフィアを一網打尽にする。わかったな。今日は金曜日だから国分町は酔客でごった返している。くれぐれも一般の客に被害が及ばないよう心を砕くよう。以上。」

「はい。」

捜査官が一斉に返事をする、

(俺は、声を出しそびれたけど。)

「では、20時まで各自待機。食事などは早めに済ませておくように。解散。あ、刑部君ちょっと、、、。」

アヤメが高木班長に呼び出された、何を話してるかはよく聞こえない。


「いよいよ初陣ですね。腕が鳴ります。」

そう声をかけてきたのは元自衛官の山田さんだった。

「でも、俺たちが戦いに参戦するわけじゃねぇし。捜査官が一戦交えた後で、のこのこ行って手錠掛けるだけでしょ。楽勝、楽勝。」

稲葉は相変わらず能天気なことを言っている。

「私は不安です。失敗して赤目様に迷惑を掛けたらどうしようかって。」


相変わらず灰野だけは無言だった。

バンパイアと眷属の関係においていろいろと気が付いたことがある。

ヴァンパイアと眷属はキャラが似ていることが多い。

もちろん例外もある。俺とアヤメ。赤目と常盤さんがそうだ。


稲葉の主、ノエルさんはイケイケのギャルタイプ。山田さんの主、高木さんはさわやかスポーツマンタイプで熱血なところがある。灰野の主は杉山さんという眼鏡におさげ髪の無口な女性だ、読書家で暇な時間は本を読んでいることが多い、この二人は一緒にいてもほとんど口をきくことはない。でも仲は良いようで二人で黙って本を読んでいる姿をよく見かける。

ここで他の捜査官の眷属と話す機会があったが、性別は関係なく似たタイプの人を眷属にしていることが多いように思った。


腹が減っては戦はできぬ。俺は稲葉、山田さん、常盤さんと、高梨さんの作ったお弁当を食べることにする。灰野も誘ったが、お腹がすいてないと断られた。

高梨さんの弁当は眷属仲間にも好評で高梨さんも腕のふるいがいがあると喜んでいた。

「今日は、チキンサンドかぁ。高梨さんの料理はうまいなぁ。」

稲葉がサンドイッチをほおばりながら言った。

「ほんとに美味しい。パンも手作りなんですよね。」

常盤さんも笑顔で食べている。

山田さんに至っては食べることに夢中で終始無言だ。

夢中で食べていた山田さんが唐突に口を開いた。

「そう言えば、さっき刑部さんだけ班長に呼ばれたろ。俺の席、班長の席の近くだから少しだけ会話が聞こえたんだよね。」

「それで、なんて?」

「なんか、今日の突入は迅速さが大切だからいつものアレは控えるようにって。」

「いつものアレ?」

俺は首を傾げた。

「本田君も知らないんだ。一体なんだろうね。アレって。」


話が済んだころ、集合時間が迫っていたので俺たちは事務所に戻ることにした。

既に事務所は殺気立った雰囲気に包まれている。

「一宇、そのダサい作業着は脱いでいきなさいよ。目立ってしょうがないわ。」

アヤメも殺気立っていた。

殺気立ったヴァンパイア集団。これはこれで怖いもんだ。


「集合!」

いつの間にか入ってきた半沢主任が号令をかけ、捜査官総勢17名は主任の元に一斉に集合した。

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