第4話 俺のご主人様②
夕方の買い物時間にはまだ早いのか商店街は閑散としていた、まだ日が高い。この時間だと、スマ眷の所長は、まだ就寝中だろう。まぁ、今日はカヲルさんが居ればOKな用事だし、所長には後日ご挨拶に伺うことにした。
「こんにちわ~。」
昨日、来た時と同じように、ケンタロウは3人掛けのソファーに寝そべっている。
今日は、食べ物は持っていない。ケンタロウは、めんどくさげに俺を見て尻尾を2,3度パタパタと振った。
「ああ、昨日の。本田君だっけ。ダメだったのね。まぁ、あそこは仕方ないのよ。今度は普通の眷属先を紹介するから安心して。日給はちょっと安いけど、、。」
「いや。無事に刑部家の眷属になりました。今日はそのご報告に。」
「ええええええ、マジ?」
カヲルさんが素っ頓狂な声を出す。
「あのアヤメお嬢様がねぇ、君をねぇ。」
「あ、それで、雇用契約書がどうとか言ってましたよね。」
「あはははは、ごめん。雇用契約書、作ってないのよ。雇われると思ってなかったから。」
(なんだよ)
「じゃ、俺。これから、戻ってすることがあるんでまた来ます。」
「オッケー。宗助ちゃんには私から話しておくから。」
「よろしくお願いします。」
事務所を出て階段を下りる。
ん。ん?????
な、無い、、?
ボロボロの台車がそこにあるだけで、さっき買ったはずのパーツの入った段ボールが忽然と消えている。
無い、無い。台車に入れてここに置いておいた段ボール箱が無くなった!!!
やばい。168,000円分のパーツが盗まれた。
それから2時間。商店街周辺をパーツ泥棒を探して歩いたが、盗んだ品を持って泥棒がうろついてる訳もなく。俺は仕方なく屋敷に戻る。
「遅かったですね。大荷物で戻られると思ったのですが。」
食堂では、アヤメと高梨さんがコーヒーを飲んでいた。
「それが、、、、。」
「なんですって!買ったパーツを盗まれたぁ!なんて間抜けなの。」
アヤメの怒りは尋常ではなかった。
「面目ない。」
「いったい誰にどこで盗まれたっていうのよ!」
「あ、あの、、。パーツ屋の帰りにスマイル眷属紹介所に挨拶に行って、パーツ階段の下に置いておいたんだけど、外に出てきたら無くなってて、、。」
俺は事の顛末をしどろもどろに説明する。
それを聞いていたアヤメが食堂の椅子から立ち上がる。
「わかった。日も暮れたし。行くわよ!」
「行くわよって、どこに?」
「取り合えず、スマ眷に決まってるでしょ。あそこにはワンコもいるし。」
そういって家を飛び出して行った。
商店街をアヤメの背中をしょんぼりと追いかける俺。
アヤメの背中からは怒りのオーラが蜃気楼のように揺らめいている。
「あ、ワンコに協力を仰ぐにはこれが必要だった。」そういってアヤメは一軒の和菓子屋に入っていった。
~♪べにや♪べにやの翁饅頭おきなまんじゅう♪食べればみーんな翁顔おきながお♪~創業200年、紅屋の翁饅頭は、創業以来変わらぬ製法で伝統を守り続けております~
店の外に置かれた古いCDプレーヤーから能天気な歌が流れている。
アヤメが紅屋の紺色の包みを抱えて出てきた。
本日2度目のスマ眷。非常にばつが悪い。
「こんばんわ。」
「あらまぁ、アヤメちゃん。珍しいわね。宗助ちゃんに御用?」
「今日は違う。」
「ワンコ!紅屋の翁饅頭持ってきたよ!」
ワンワンっ!
尻尾を大きく振りながらケンタロウがソファーから飛び降りる。すでにヨダレが滝のように流れていた。
「まだよ。ワンコ。あなたにはやってもらうことがある。それができたら翁饅頭はあなたのものよ。」
俺は仕方なく二度目の来訪の顛末をカヲルさんに話した。
「もうすぐ宗助ちゃんも来るから、待ってたら。」
そう、カヲルさんが止めるのも聞かず、怒りに燃えたアヤメとヨダレに濡れた
「ここに置いておいたんだけど。」
俺が台車が置いてあった場所を指さすとケンタロウはそのあたりの匂いを一心に嗅ぎ出した。
ワン!
そう一声吠えて、ゴールデン商店街を進んでいく。その足取りは軽い。
そして、ゴールデン街のはずれにある一軒のバーの前で足を止めた。
「ワンコ、ここでいいのね?」
「ワン!」
「行くわよ。一宇。」
「行くわよって、ここバーだぜ。アヤメって未成年じゃねぇの?ここは警察に任せたほうが、、、。」
「未成年?違うわよ、少なくとも私はあんたよりは年上だし。それに、ここはヴァンパイア専用のバーだから日本の警察は管轄外よ。」
アヤメが店の看板を指さす。赤い看板は、ヴァンパイア専門店の印だ。アヤメがドアに手をかける。
「まて、アヤメ。日本男子として婦女子を危険な盛り場に先に入らせるわけにはいかない。俺が行って様子を見てくる。ここで待ってろ。」
俺は、ドアにかかったアヤメ手を制して言った。
俺はひとり店に入る。
次の瞬間。俺の日本男子魂が一気に萎んでいった。
「お前、酔っぱらってんのか?看板見なかったのかよ。ここはヴァンパイア専用だ。」
そう言ってカウンターの中の男が手で追い払う仕草をする。
「ちょっと待て、いい匂いじゃねぇか。人間ってやつは本当にいい匂いがするぜ。」
カウンターに座ったヴァンパイアの中でも一番大きな男が威嚇いかくしてくる。
「あ、いや、ちょっとお聞きしたいことがありまして。」
俺は震える声で、可能な限り丁寧に言った。
カウンターに座っていた大男がニヤニヤしながら席を立ってこちらに迫ってくる。
「なんだよ。聞きたいことって。」
その時、俺の視界に段ボールに入ったパーツが見える。
「あ、ははは、それ。それを探してたんです。良かったぁ見つかって。それ,俺のなんで持って帰ります。」
「ちょっと待て。それは俺のだよ。それとも、俺が泥棒だってのか!俺が盗んだって証拠があるのかよ?俺はヴァンパイアだぜ、日の光のあるうちは外には出られないんだぜ。外は日が暮れたばっかだよなぁ。」
男がいきなり胸ぐらを掴んでくる。俺は軽々と天井まで持ち上げられた。
男のニヤついた口元からは牙がチラチラと見える。
「おれ、、のだ、、。さっ、、き盗まれたんだよ。」
首を締めあげられて思うように言葉が出ない。息もできない。頭がぼーっとしてきた。
その時、バーの扉が乱暴に開き、聞き覚えのある声が店内に響く、
「やいやいやい。御用だ!か弱い人間に手を出すとはヴァンパイアの風上にも置けない野郎め!この紋所が目に入らぬか!ヴァンパイアポリス執行部、刑部アヤメ。窃盗と人間に対する暴行の現行犯で逮捕する。素直にお縄につけばよし、抵抗するなら容赦ようしゃしないよ。」
(ん?アヤメの声、、?でも言ってることが変だぞ。なに?ヴァンパイアポリス?もんどころが目に入らぬか?)
首を締め上げられて、ドアのほうを振り向くことができない。
事の顛末を見ることなく俺の意識は夢の世界に溶けていった。
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