HALF

grass horse

第0話 prologue



 自分の名前が嫌いだ。

 誰からも、素敵な名前だと言われる。そんなことないですよというと、こんな綺麗な名前をつけてもらえて、親に感謝しないと、と叱られる。けれど僕は、この名前が吐気がするほど嫌いだった。正確には——名前の、漢字が、である。

『進夢』

 夢に進む、と書いてススムと読む。

 馬鹿馬鹿しい名前だ。けれど、自分では変えようがない。

 自分でどうにかできないのかと、一度図書館のパソコンで調べてみたことがある。その時に得た情報によると、名前を変えるには正当な理由付きで家庭裁判所に申し立てをしないといけないのだそうだ。自分の名前が嫌いだから、ということはおそらく、正当な理由としては認められないだろう。

 ささやかな抵抗として、プリントや人に名前を教えるときには、「進」にしているが、昔から僕のことを知っている人が多いせいか、完全に初対面の人以外にはほとんど効果がない。至極残念な話だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る