世界一ヒマになるのはやめておけ!

@ppppaaaapppp

第1話


都立取付高校。昼休み。その図書室の一番奥の棚の前に今俺はいる。そこにいるのが心地よいからだ。なにも考えずただ自らを棚の一部の様にして立ち尽くしていることが、学校で唯一の悦びの時間だからだ。昼休みにわざわざ図書室に来る人が、わざわざこんな太い辞書ばかりあるこの棚にくる可能性は極めて低く、俺はいつも昼休みはここで快感に溺れているのだ。どうせ図書室に来る理由なんて、暇だからなんだろう。ハーレム物のライトノベルなんか読んで、教室に自分の居場所がないことから目を遠ざけようとしているんだ。俺の行動はおかしくはない。これを妹に言ったら変人とか言われたが、妹の方がよっぽど変人だ。変人に変人と言われたということは、普通ってことになると俺は思う。一つ安堵のため息をつく。休養ついでに、今日起きた出来事について反省をしよう。

今から今日の回想に入る。あれはそうだ。さっき。さっき、2分前の出来事。

「あの、邪魔なんですけど」

そう言われて横を黒目だけでちら見すると、少女が無表情で立っていた。黒髪に黒い目に白い肌の白目が充血していない美人だ。いつもの俺なら吃りながら作り笑いを浮かべて光の様な速さでどいてあげるだろうに、しかし、俺は二分前もここにいたのだった。 この変態行為をこの無垢な少女の様な目で見られてしまったことに俺は動揺を隠せなかった。

急展開だ。まるで自慰行為を母親に見られた時の虚無感。孤独感。罪悪感。俺は体勢を変えないで頑張って小声で言った。

「は、はの、ちがうんで、俺はべつに、こうしていたくてして居る訳じゃなくて、ごめ、んなさい」

そこまで言った時彼女は言った。

「あれ?人間だよね?動かないってことはー人形なの?はー、もうじゃまだし!」

瞬間彼女は俺に抱きついてきた。本気でを人形だと思い込み、どかそうとしているらしい。俺の声は声になっていなかったのかもしれない。俺は無機質になろう、そうだなろう。てか胸が当たっているのはどうすればいいんだ。

「うー重いっ。だれだしこんなの置いたの。」

助けて助けて助けて助けて。

「体重まで人間とおなじとか、何これ。」

うあああああああああ。

「もういいや。」

無情な言葉と共に彼女は俺を横に倒した。ぐしゃっと俺は肩から倒れた。いや、本当に人形にやるなら別に何も言わないけどさ。俺は傷つきました。もうライフが0になりました。はやく帰りたい。ベッドにダイブしたい。俺は悪くないもんっ!

感想終わり。

その後彼女は俺の腰あたりにあった分厚い本を取って去ったんだけど。その後静かに俺は元の体制に戻った訳だけど。なんて言うか、あの子もぶっ飛んだ感じだな。俺の気持ちなんか知りませんって感じだな。

あの子には人間らしい感情がないと思うんだ。重いと言った時も凄く重そうではなかったし。もういいやと言われた時も意外ではなかった。この場所に気配がなく来たのもあの子が初めてだし。取り敢えずブラックリストには入れておこう。

まあ、そんな日もあるか。今日は今日なだけだ。特別じゃないしな。うん。思考を放棄するんだ。

キーンコーンカーンコーン。チャイムが鳴る。

さて、教室に戻ろう。

なるほどそういう展開か。さっきの悲劇は展開する為に大切だったんだ。さっきの少女が自分と同じクラスで後ろの席にいるとは。裏切られたような、裏切られていないような、お決まりのような、無くてはならないような、良くある感じのやつだろう。とはいえ、俺は無力だ。ただ座るしかない。

彼女はあそこから取った辞書とにらめっこをしているようだった。さらさらとページをめくる音が耳を凝らすと後ろから聞こえた。彼女の名前を思い出した。針城さらだ。休みの時間は誰とも話さずに、友達は少なく、個人的には親近感を持っていた子だった。しかし、俺が思い出せなかったのは何もただ俺の他人への興味のなさからだけではない。

針城さらが、普段とは別人だったからだ。

彼女が若者言葉を使っているのは初めて見た。いつも苗字のような鋭い針のような態度や言葉でいた。それに、あんな奇行に走る娘だとは思っていなかった。彼女のことが急に恐ろしくなってきた。彼女が二重人格なのはもう決まりきったことだと思った。恐怖を覚えた。

そして興味がわいた。

放課後。誰もいない教室でのイベントがある訳でもなく、クラスで1番に教室を出てコンビニもいかずまっすぐ家に帰った。

ガチャ。

「ただいま」

「勇者様よ!おかえりなさいませ!」

「うっ」

飛びついてきた黒髪黒目は、俺の妹だ。今日の俺は勇者様らしい。大体1週間に1度呼び方が変わる。ちなみに昨日までは「それがし」だった。

「その気持ち悪い顔は、何か悩みがあるのですね?」

「気持ち悪いってひどいな」

「まあ勇者様の顔は、他の人と比べると毎日気持ち悪いので私は悲しいです」

「ただの悪口じゃないか!」

「なんでもおっしゃってくれて構わないんですよ。あなたのためなら何でもいたします!」

「どんなアニメにはまってるんだよ!年齢規制が無いやつなんだろうな…」

アニメの真似をしてなりきっているのだろう。幼稚園生がレンジャーになりたがっているのならまだかわいいものだが、あれは俗に言う中二病だ。それも薄っぺらい感じではなくて、もっと根の深いめんどくさいものだ。

「早く言いなさいよ」

しゃがんで靴を揃えて居ると、とっくにリビングに横たわって偉そうにしている妹が大声で偉そうに言った。

「悩み。聞いてあげますよ。」

「ちいっ!」

俺は舌打ちに見立てた声を出した。妹は床、俺はソファに頭を同じ向きにして寝転がって今日の事件を話した。

説明終了。

「あっあははははははははははあっはっ」

仰向けになって腹を抱えて笑っている。

「うっせえな」

「とうとうばれたんだね!勇者様の、へ、変態行為がっあははははは」

「こっちは真剣なんだが」

「あっ、ごめんなさい」

間。

「その女の人面白いね。あんな所にこんな邪魔な人形があるわけ無いのに。私が行ったときも全然動かない人形があると思ったけど。てか勇者様自身が棚というか、図書室になっていて、本当に自分の兄があれだとも思えなかったし。途中まで勇者様に今まで騙されていたのかもと思ったし。あれ?じゃ、その人特殊じゃないんじゃない?」

「長文の上に初めと終わりが真逆になっている最悪な意見の例だな」

妹はこれには無視をすると決め込んだようだ。そして、急に真剣な顔で言った。

「でもね、これだけは言える。これはチャンスだよ。普通じゃない勇者様の掛け替えのない友人になれるかもしれない。人は殆どが馬鹿だよね。殆どが何も考えないで強い人の意見を鵜呑みにしているだけだよ。だけど、その人は違うのかもしれない」

妹は中二病だ。それも、手が追えないほど根が深いところまでしんこうしていまっている。しかし、俺はこの子を嫌えない。

「俺やっぱお前の事、嫌いになれないわ」

俺がそう言ってから自分の部屋に行く途中、リビングで再び大きな笑い声が聞こえた事は、見逃してやるとする。

朝、目覚めて、いつもの通りのろのろと学校に行く。いつもと変わらない。たった今、校門の前で可愛い女の子に話しかけられたまでは。

「ちょっと。こちらに来てください」

スカートの横のヒダの凸を手で握って、恥ずかしそうにしている彼女は、針城さらだ。彼女はそう言ってから3秒後に俺の手首を握り連れて行った。図書室だ。図書室の、俺の場所にいた。

「あの、あなた昨日図書室にいましたか?昼休みに図書室に立っていましたか?私のこと覚えてますか」

気まずい雰囲気だ。

「あ、覚えているよ。…ん!んんん!怪我とかないし大丈夫。気にしないで」

「あなたの怪我なんてどうでもいいよ」

俺に衝撃が走った。

「わたしが、わっ若者言葉っ使っているのを見たでしょう!?ああ恥ずかしいもうっ、誰にも言わないでくださいよ!言ったら……いや、言わなくても、あなたを異世界へ連れて行きましょう」

「は?」

「乙女の秘所を見ておいてよく口答えできますね?どうせあなたヒマなんでしょ?だったら、私の軍に貢献してよね、こっち」

「えええ!?」

棚がぐにゃりと歪み、瞬間海の中になった。

「ここが、ウチらの軍の……仕切ってる街?みたいなところ。海の中だけど、領土は一番広いし、最高の街」

「はぁ〜〜?待て、頭が追いつかん」

なんで俺は水中で呼吸ができんだ!?なんで俺は図書室にいたのに海に潜ってんだ!?

「でぇ、ウチはそこの姫ね?あんたみたいなコミュ障ぼっちなんか、一生話せないこーきな身分だから、そこんとこ忘れんなよ?」

「はぁ〜〜?んーー」

針城が言っていることは、なにも頭に入ってこない。ただ針城の手はすげぇ女の子っぽくて、長い黒髪は浅い海の底までとどくきらきらした太陽で照らされて、綺麗だった。

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