第25話呪いの言葉
「呪術の中で一番、怖いのは何だろうか」
展示品のわら人形を目の前にして、ふと何気なく口をついて出た質問である。
もちろん町にある人形館での出来事である。勤め先の介護施設が休みであったり、夜勤明けの日には、必ずと言ってよいほど、人形館に足を運んだ。
答えを期待した訳ではないが、しばらくして答えが返ってきた。
「二つある。呪い方法と、どこで受けたかと言うことである」
「一番怖いのは言葉による呪いだ」
「言葉による呪いとは」と尋ねた。
「言霊だと言う言葉を知っているかね」
軽く頷いた。
昔の人は言葉には霊が存在すると感じた。今でも現実に言葉に霊が存在する。その霊を使い相手を不幸に陥れる呪術だ。何の道具も要らない。ワラ人形のような些細な道具もだ。しかも真夜中に暗闇の林の中で釘を打ち込むような不可解なことも必要もない。ただ呪う相手の悪口を言い触らすことで呪いの行動は完結する。社会的に相手を葬ることもできる。呪われた者は適切な防御方法も反抗をする機会もなく破滅を強いられることもある。実に恐ろしいことだと館長は感慨深げに話した。
「それにもうひとつは呪いを掛けられた場所だ。特にふるさとで受けた呪いは怖い。三つ子の魂は百までと言う言葉もある。魂が固まる前に受ける呪いであると言うことと、呪いは普通、一生と言う長い間、効果が継続することもあり、苦しみ続ける期間が長いと言う点でも、ふるさとで受けた呪いは怖い」
現実にそのような体験をしたことがあると彼は続けた。
「自分のふるさとも君と同じ小さな島だ。その島のある村に、生まれつき、言葉が話せない子供がいた。ある少年がその子供のことをからかい続け、親同士の争いに発展した。からかわれた少年や親に村人は味方した。からかった少年と家族は村八分同然の扱いを受け、村を出ていくことになった。彼らが村を立ち去る時に呪いの言葉が掛けられた。言葉の言えない子どもの家族が、『お前こそ言葉を失い、耳が聞こえなくなれ』と呪ってしまったのである。そのせいで、町に出て、からかった少年は口も利けず、耳も聞こえなくなってしまった。よその土地での生活でストレスがかかったせいだと専門医は分析したが、その少年の病は一生、治らなかった。聾唖のまま人生を終えた。彼が聾唖者になった原因はふるさとで受けた呪いの言葉のせいだと思う。呪いの言葉をかけた家族も、そのことをひどく後悔したが、家運が傾いたと聞いた。呪いの言葉を使うときには、十分に注意をせねばならないと今でも僕の村では語り草になっている」と、館長は語ってくれた。
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