第24話幻聴
原爆投下投下直後の長崎や広島の町を連想させる風景が連日、テレビに映し出される。
一月経過した今でも瓦礫もうず高く積まれたままである。瓦礫の下には人の死体が埋まっていると言う。あり得ない非現実的な光景である。
何もなす術もなく大津波に翻弄され、地震に脅えるしかない。るこれが文明の力で地球を支配し、生物界でわが世の春を謳歌する人類の実像である。地球の怒りの前にはなすすべもないのである。そして人間はこの地球上でしか生存を許されていない。
幻聴は非現実的な光景の中でうす汚れた茶色の犬が瓦礫を掘っている姿を見た時から始まった。その犬が餌を漁っているのか、飼い主を探しているのかの不明である。首輪をかけられており、かっては飼い犬であったことは間違いあるまい。
始めて幻聴は、その夜からである。
半世紀も前にふるさとの村に打ち捨てた飼い犬の鳴き声が、突然、耳の奥で聞こえるのである。犬の面影も名前も思い出せない。村を立ち去る時に、家の木の根元に縄で結ばりつけたまま、置いてきた。もちろん今は生きているはずはない。犬は私たち家族の事情も、みずからの運命も知るはずはなかった。立ち去る私たちを呆然と立ち尽くし見送っていた。
半世紀も前のことである。突然、その飼い犬の鳴き声が耳の奥で聞こえ始めたのである。 予期もしない時間、しかも突然である。
眠りに入ろうとする瞬間であったり、散歩の途中であったりする。
幻聴を聞いた時には驚きのあまり全身が縮み上がる。しばらくして胸が締め付けられるような悲しみ襲われる。
とりあえず幽霊話に詳しい町の人形館の館長に相談すると、これも幽霊の一種だと言う。
飼い犬の亡霊が悲痛な思いを伝えたがっていると言うのである。
半世紀の前の飼い犬の亡霊である。
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