第14話ワラ人形の呪い

 人形館にはワラ人形の展示物もある。

 丑の刻参りと言うワラ人形を使い、怨みに思う人を呪い殺す話はよく聞く。もともとはは平安時代の嵯峨天皇の頃にさかのぼり、橋姫と言うある公卿の娘の物語に原形をおく由緒ある呪いの道具である。

 京都の貴船神社の神託をお受けた橋姫が長い髪を五つに分けて角を作り、顔に朱を、体には丹を塗り、頭に鉄輪を乗せ、その鉄輪の三つの足に松をつけて火を灯し、更には両端に火をつけた松明を口にくわえるというおぞましい姿で夜が更けてから都の大路を南へと駆け、お告げ通りに二十一日宇治川に身を浸し、生きながら鬼となったと言う伝説と、陰陽師が呪詛の時に敵に見立てた「人形祈祷」にが合流し、それを刻参りの方法に取り込んだ由緒ある呪いの方法である。

 人形館のワラ人形は新しく、大きな人形、黒い髪の毛を被せた大人の女の人形、そして子供の人形の三体が一体にになっていた。

 胸には釘を打ち込んだと思われる穴跡があり、すでに使用済みであることは、一目で明らかであった。

 隣には三本の五寸釘も展示されていた。そして丁寧にも呪いを行う手引きまで用意されており、思わず隣に立つ人形館の館長に殺人幇助罪に該当するのではないかと質問した。 年老いた館長は耳が遠いのか、聞こえないかのように無頓着である。

「もちろんいわくがあるのでしょう」

 この質問には彼は深くうなづき返事をした。

「警察から預かった物です。隣町で親子三名が首をくくり、自死すると言う痛ましい意事件と関係があるのでは疑っているようです。しかしあまりに非科学的なことだと上層部かる一笑された若い刑事が預かってくれと持ち込んできたのです」

 顔がこわばった。今の住まいに落ち着く前に物件の下見のために案内を頼んだ若い不動産屋一家の親子三人が隣町で自死した話を聞いていたのである。床柱の不気味な模様と自分の家族の身長より少し高い場所に、それぞれ面をことにした釘穴らしきものがあるのに気付き、慌ててそこを去ったのである。だがそのことと館長が話す三人自死のの話は別であって欲しいと、内心願ったのである。

 事件の起きた家の北側に竹がうっそうと茂った藪があるのですが、その中の木の一本にこの五寸釘で三体の藁人形が打ち付けられていたのですと館長は説明した。

 ここまで話を聞くと、例の若い不動産斡旋業の男の物語だと観念せざる得なかった。

 館長は感慨深げに話した。

 親子三人が床柱の三面に打ち付かれた五寸釘に首を吊り自死するなど普通では考えられません。現場近くの竹林の中の木に打ちつけられていたワラ人形の祟りがあったにちがいないと若い刑事は信じているようでした。非科学的だと非難され処分するように命じられた彼はワラ人形を密かに当館に持ち込み、ワラ人形の祟りについて詳しく聞いて言ったのです。

 若い刑事はこの手の品物はどのように入手するかも聞いたものですから、今はインタネットでも簡単に購入することができると教えてあげましたがね。若い刑事はこのワラ人形があの若い不動産一家の自死事件に関係していると疑っているようですがねと館長は話した後に付け加えた。

「人形には不思議な力があります。ですがワラ人形には自らを五寸釘で木に固定する能力はありません。イタズラでなければ、一家を呪い殺そうとする強い怨みを持つ者がいたかも知れません。警察はそれを知ろうとしているのかも知れません」と冷静に分析をした。

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