光を求めた怪物
@Amzarashi555
第1話
僕が初めて「それ」をみたのは、ボンヤリとしか覚えていないが、多分兄が首を吊って死んでいるのをみつけた時だったと思う。
(いや、同級生の正樹が死んだ時だったか?
まあそこはどちらでもいい。)
「それ」は部屋をゆっくりと飛び回っていた。
弱々しい光を放ちながら、埃のようにフワフワと飛んでいた。
僕には「それ」が何か分からなかったが、
目の前で身内が死んでいるというのに、別段気が動転するわけでもなく、よく分からないものに心奪われ、それを美しいと眺め続けていたのは、
まあ我ながらどうにかしていたように思う。
しかし、それほどに「それ」は美しかった。
否、美しすぎた。
「それ」のことしか考えられなくなるほど。
僕はもう一度あの光球を見たいと思い、必死に探し求めた。
しかし、当時小学生低学年だった僕には、「それ」を探す方法など大して思いつかず、ただひたすら近所を散策するくらいしかできなかった。結局あの光球は見つからず、そのうち、僕は探すのを諦め、記憶からも消えていった。
しかし、もう一度あの光球と巡り合う機会が来たのだ。
そしてこの事が、僕の全てを変えてしまったのだろう。
それは初めて「それ」を見た三年後だった。(これも曖昧だが、多分三年後だったと思う。
その日は学校の遠足だった。
周りの同級生は弁当の中身がどうとか、バスの中でトランプをしようとか、そんなことを話していて、僕も普段よりテンションが上がっていた。
僕の学年は4クラスあって、バスも4台あった。
僕らのクラスは一番最後に出発した。
多分僕はこの頃までは、まだまともだったのだろう。
多くはなかったが友達もいたし、好きな子もいた。
家族も好きだったし、それらはみんな大切なものだった。
目的地に向かう途中で、バスは事故を起こし、崖下に落下した。
大きな事故で、死傷者もたくさん出た。(死傷者といっても全員僕のクラスメイトなのだが。)
ニュースや新聞でも大々的にとりあげられていたので、地名と事故の時期をいえば、離れた地域の人でも分かると思う。
それほどまでに壮絶な事故だった。
バスの中に乗っていたみんなは(僕も含め)バスの落下に合わせ宙に浮き、床に叩きつけられ、バスが崖下に到着した時、今までにない衝撃が全員を襲った。
子供ながらに「死んだ。」と思った。
しかし、僕は生き残った。
こういうのを「奇跡」だとかいうんだろうけど、そんな下らないものよりも、もっと途轍もなく素晴らしいものを、僕は地獄の中で見た。
血塗れになって倒れている奴や、瓦礫か何かに潰されて動かないやつ、泣き叫ぶやつ、親の名前を呼ぶやつ。
僕も少々怪我はしていたものの、意識はハッキリとしていた。
苦しむクラスメイトを見て「助けないと。」と思った。
が、次の瞬間体は動かなくなり、思考は止まり、眼前の光景に釘付けになった。
あの光球が数十とバスの中を飛び回っていた。
無意識に涙が溢れでていた。
何とも歪な光を放つそれを、只々眺めていた。
思考は完全に停止し、体は動かなかった。
全ての神経が、ただひたすらにその光景を網膜に焼き付けようとしていた。
その時、足元から「ゴホッ」という咳き込みが耳に入り、その声にハッとし、僕はやっと我を取り戻した。
自分の足元をみると、大きなガラス片が背中に刺さっているクラスメイトが、身体中から血を流しながら倒れていた。
呼吸は掠れ、目もほとんど見えていない様子だった。
そのクラスメイトに手を差し伸べたその時、僕は又しても動けなくった。
クラスメイトの背中から、あの光球が出てきたのだ。
それと同時に、虫の羽音ほどしかない小さな呼吸音は止まった。
ーーあれは人が死んだら出るんだ
今までにないくらいの興奮と歓喜に襲われ、感情は言葉に出来ず、ひたすらに嗚咽していた。
その後、僕らは救出されたが、結局クラスの3分の2くらいの数が死んだ。
20人弱くらいだった気がする。
生き残ったクラスメイトも、半分くらいは引っ越してしまった。
残ったものは他のクラスにバラバラに振り分けられた。
生き残ったみんなは、少しずつ、ほんの少しずつだけど、心傷を癒し、前向きになろうとしていた。
僕もそういう
フリをしていた。
正直誰が死んだとかどうでも良かった。
家族や友達もどうでも良くなった。
もうその時から僕は
「またあの光を見たい」
それしか考えられなくなっていた。
一人目の僕は、あの崖下で
クラスメイトと共に死んだのだ。
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