第11話
旅人にとってしてみれば少年は謎の多き人物であった。
『奴』は少年であった。それだけは旅人が直に目撃した確かな情報であった。しかしそれが逆でも成立するという風に旅人が考えることは出来なかった。旅人の選択肢において、「彼を殺す」という選択は徐々に薄まりつつあって、最早無いに等しくなっていた。旅人は『奴』と一戦を交わした時を思い出した。
その時に旅人は『奴』の目を見たとき、これからやろうとしている行動におぞましい感情を抱いてしまっていた。そのおぞましい感情が何だったのか、旅人は少年の目が覚めるまでその意味を探っていたが答えは見つかる気配すら見せなかった。旅人にはそれが妙に恐ろしく感じさせられていた。
旅人はひとまず外へと出たが、特にこれといって行き先は無かった。この時既に旅人の目的は一変していた。旅人はこの行動が一体誰のためにあるのか全くとして理解していなかった。一体何のために保護したのか、一体誰がそれを求めているのか。旅人はそんな事について思考に思考を重ね続け、自問自答をしていた。
旅人もまた、混乱の身であったのだ。しかしその混乱はいつものそれとは少しだけ性質が異なっていた。旅人には目の前に見える景色から暗い色彩が無くなるような感覚を得ていた。外一帯には強い太陽の光が射し込んで、それは旅人の顔を照らすように明るかった。旅人は何故か、そのことに対して凄まじく気分が高揚しているようであった。しかしそれが何に起因しているかについては解ることができなかった。
ただ一つだけ旅人が確信していたことは、これからの使命は少年を何としてでも死守することであった。
旅人はそんな中で突如としてひどい頭痛に苛まれた。体の突然の非常事態に旅人は身構えることなど当然出来ず、なすすべも無く倒れてしまった。さっきまで強い光が差していた旅人の視界は段々と暗黙を帯びてきて狭くなっていった。微かに見える部分には黒い服を着た背の高い男性らしき人が去っていくのが見えた。見るからにそれは怪しい人物であったが、立ち上げることの出来ない旅人にはもう考える余裕すらも無くなっていった。意識は朦朧として体から遠のいていき、ついにその瞳を閉じてしまった。
空は曇り空で、雨が少しずつ降り始めていた頃であった。
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