第5話
旅人が『奴』の襲撃現場へと向かうとそこは事件を耳にした「見物客」で溢れかえっていた。旅人は人混みの中を強引に突き抜けて行った。するととある見物客の1人が旅人を引き留めようとする。
「おい!何をするつもりだ!此処からは『奴』がまだ居るんだぞ!死に急ぎか!」
「その『奴』を殺しに行くだけだ。アルバンさんの依頼でね。」
そう言って旅人は酒場へと入った。
酒場には無数もの煙が立ち込めており、下は死体の臭いの血の匂いが全体に広がり、旅人の嗅覚は壊死寸前にまで追い込められた。そうした死体の中に旅人は倒れ込む子供の姿を見つけた。
「大丈夫か!?」
「助....け...て」
おそらくウェイトレスであっただろうか。背中にはナイフが数本刺さっており、限界にまで血が吹き出した後のようだった。旅人はそこに命あらば全てを尽くして助けたい一心であったが、おそらく助かる見込みはほぼ無い。旅人は抑えがたい怒りがこみ上げてくるのを必死で堪えて先へと進んだ。旅人から見た酒場の光景は過去に経験したあの忌々しい景色をフラッシュバック、或いはそのものの再来のようで余計に息苦しさを感じさせた。
旅人は暗雲の如く立ち込める炎や煙たちを切り抜けて酒場の奥まで向かった。もう何人もの死体を見てきただろうか。今まで旅人は幾人かのならず者を斬ってきたが、今回のそれは最も狂気的で最も猟奇的である。死体達によって旅人の心は狂気に蝕まれた。旅人の心に潜む激しさが今にもその鎖を破いて横暴的行動にまで足を踏み出す恐れがあったのだ。旅人はそれが恐ろしくて仕方なかった。そんな中で旅人は薄暗い沈黙の中に人影を見つけた。
「おい!大丈夫か!君は無事か!」
旅人はそれを生存者だと思い込んで人影の主への心配をした。しかしそれはしばらくして徒労であるということに気づき始める。
「ここにも...居なかったか...」
旅人はそこでよう人影の主の正体に気がついた。その声は1度たりとも聞いたことはないが、その口調や抑揚、一片だけ見えるナイフの光、1人だけ生存しているという不可思議さ、その全ての情報を合わせれば全てを予測することは容易であった。
あれが『奴』であると。
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