2 館長の残したもの

 扉は開いていたが、中には誰もいない。

 ユティは、中へ入ると、一人で書棚の方へ行ってしまい、リダンは追いかけようとして、机の所まで来ると、そこに置き手紙を見つけた。

 手紙は、こんなふうだった。


「リダン君へ

 とりいそぎ、書きとどめておく。

 今日、君を追い返したのはすまないと思っている。しかし、我々の消滅のことで頭が一杯で、どうしても一人になりたかったのだ。

 さて、私はこれまでのことを、どうやら説明できそうだよ。その鍵になったのは、トムリィ女史の残したメモだ。最初、私はこれを無視していた。

 しかし、君がラーベスが消えたことを知らせに来た時、ふとこのメモが頭に浮かんでね。急にその意味がはっきりしてきたんだ。

 このメモにある、トムリィ女史の発見はすばらしい。ところで、きのう私たちを集めて、女史が説明を始めた時、(そこで、彼女は消えてしまったが)ちょっと元気がないのに気づいたかい? 彼女は、これから私が話すことを言おうとしたんだと思う。それで、つらかったんだ。それほど、この発見は残酷なんだ。」


 手紙は、さらに続く。


「全体を通じて、最初に謎に関わったのは誰か? それは、原旅行者のレムルだ。彼は、旅から帰って四日後に消えた。

 二番目は? そう、ここにあるとおり、ラーベスだ。彼は、帰って三日後に消えている。レムルより、消えるまでが、四日から三日へ、一日減っていることに注意するんだ。

 さて、三番目は私だ。ラーベスは、あの手紙の相談を、まず私のところへ持ち込んだから。そして、今日が二日目だ。

 四番目は、トムリィ女史だ。手紙が古体字で書かれていたため、彼女の協力をお願いしたわけだ。

 その結果、彼女は解読の一日後、次の日に消えた。

 もうわかっただろう。

 謎に関わった者に残される日数は、減ることに対して平等なのだ。ただ、ラーベスと私が消える前に、手紙の解読を始めてしまったため、四番目のトムリィ女史の方が早く消えてしまったのは、気の毒に思う。

 さあ、ラーベスが消えた今、私はまだこの手紙を書いていられる。が、今日中に消えるのは間違いない。

 しかし、ここで手紙を書くのをやめることはできない。そうだ。この後、どうなるかを知らせなければ。

 結論を言うと、危険な五番目は、旅行者になるはずだ。手紙の解読は、あれ以上にはならないからね。ラーベスに次ぐ第二の旅行者、彼に許される時間は明らかだ。

 謎に関わった順番に、このルウィンラーナで消えるまでの日数は、四日、三日、二日と減り、トムリィ女史で一日まで減った。当然、五番目の者は、0日だ。つまり、帰ったその日限りということだ。

 リダン君。君は、旅に出るつもりだと言ったね。

 じゃあ、くり返そう。

 もし、君が旅から帰れば、その日のうちに消滅する。それでも行くかどうかは、君の選択に任せるよ。君が決めることだ。

 でも、ここに書いたことは、どうか忘れないでくれたまえ。

 お別れだ。これを、私の最後のあいさつとしよう。

              ルウィンラーナ図書館長 ロームジィ 」


 置き手紙には、こう書いてあった。

 リダンにとって、これは確かに大変だった。

 あの気のいい館長も、消えてしまったのだ。館長も、旅行へ行くかどうかは自分の意志だ、と言っていた。

「帰ったその日に消えるだって? 冗談じゃない!」

 リダンは、自分に立ちふさがる大きな謎の存在を感じていた。

 決心はついたのだろうか。

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