シェパードのため息

味噌汁粉

1 羊飼いの犬飼い

 シェパード、てな言葉は別に犬のことを示さない。

 元来は羊飼いとかの意味であって、つまりシェパードパイは犬のパイではなく羊飼いが作るパイ、すなわち羊のパイだったりするわけだ。

 牧羊犬のことをシェパード・ドッグ、羊飼いの犬と呼んだのである。しかし日本でシェパードと言って示されるのはほぼ十中八九ジャーマンシェパードなのでまあ、いちいちジャーマンシェパードドッグと長々書くのも面倒くさい、シェパードと呼んでしまうことにする。

 あの犬種は、多くの人が警察犬だのなんだので見て思う通り、おそろしく頭が良い。ちょいと頭の回る幼稚園児くらいの思考を普通にする。だというのにあくまで犬だから、豊富な体力、そして鋭い牙に強い顎。それらをそんだけの頭の回転でもって攻撃に向けたら、人間なんざひとたまりもない。

 幼稚園児が全力で大人を殺しにかかっても体力が追いつかないだろうから脅威にはならないが、シェパード相手だと悲惨だ。そんなことする園児はいたら怖いが、シェパードが人を噛んだニュースは時折耳にするのが現実だ。

 そのうえで、あいつら、群れのことが大切すぎる。

 どれくらい群れの意識が強いかというと、飼い主家族と一緒にテレビ見てるのが至福って顔したり、常日頃から訓練を受けている犬が家族より信頼しているかのように見える訓練士が相手であっても家族が暮らす建物に入るのを許さないやつもいる、くらいのレベルだ。どちらもうちの犬の話だが。

 そも、ネットでもすぐに検索できることだが例として、茨城ではシェパードは「人に危害を加えるおそれのあるものとして定める8犬種」に入っており、檻で飼育するように、とされている。それくらい、本気になるとおそろしい犬種なのである。

 だのでまあ、その硬いくせに妙にふわふわした毛の背中を枕にするような真似は、飼育者の特権であり、決して普通の方におすすめのできる行動ではない。

 めっちゃしあわせやけどね?


 はてさて、そんな犬だが……だったのだが。

 寿命は長くない。

 だから、だらだらと書き募るつもりの犬の話は、だいたいが過去、ざっと十年ほどの話である。

 既に出た実家だが、またシェパードを飼うとか言い出したので、気まぐれで、思い出話を書き増やしていこうと思った次第。


 ありゃ間違いなく、関西圏の一大イベント、某、かつて強い野球部があった高校近くの花火の翌日であるからして8月2日のことである。

 花火を口実に泊りがけで呑んで帰ってきたら、家の近くまで来たところで何やら黒いころころした物体が走ってきたのだ。

 それが自分と、自分の家に来たお嬢さんの、最初の出会いだった。

 なんでも前日、自分が別の場で呑んでいた頃合いに家にブリーダーをされている方が見えられて、お嬢を引き渡してもらったのだという。

 実はそれ以前にも我が家には犬がいたのだが、それは前年末、十六年の生涯を終えたところだった。先代は白柴の雑種と思しき気品のある犬だったのだが、それがいなくなって酷く落ち込んだ父を見かねた人が子犬の引取先として紹介する話をつけていたとかどうとか……そのあたりは当事者ではないのでよくわからぬ。

 ともかくも、その結果。

 うちは羊飼いの犬シェパード飼いとなったのである。

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