ライバル現る。
第8話 椿
「勝負しろ! 小林葵!」
上林椿は、教室に入ってくるなりまっすぐ葵の前に行き、叩きつけるように言った。
椿は、葵より頭一つぐらい小さい小柄な女子で、目は大きくて気が強そうで、セミロングの髪を二つ結びにしていて、まだ中学生といっても通用するあどけなさがあった。
「どうしたんだよ、椿。いきなりやってきて、藪から棒に」
「赤木くん! あなたがいけないのよ!」
「お、俺?」
周囲がざわつきだす。異性関係の何かだろうけど、まるで身に覚えがなかった。
椿は、中学の時のツレで、別に友達なだけだし、恋人というわけでも、そういう風に意識したこともなかった。たまたま同じ高校に上がれたけど、普段、そんなに話さないし、ごくたまーに中学の時のツレとみんなで遊ぶ時の一人で……。
「ずっと赤木くんが好きだったの!」
「え、うえー?」
寝耳に水だ。そんなことは知らない。友人からそんな噂を聞いたこともない。そういう風に見えたそぶりも見たことがない。
俺は、葵の方を見た。葵は、厳しい表情で睨めつけてきたが、俺は、首を振った。
そんなことは、知らない。クラス全員の視線が突き刺さってくるが、俺は知らない。
今、知ったところだ。
「そうだったの?」
「そうに決まっているじゃない! そうでなければ普通に私の偏差値に見合った学校に進学したもの、赤木くんがこの学校を目指しているって聞いて担任に反対されながらも、志望校のランク落としてここに来たの! 赤木くんと一緒にいたかったからここにいるの」
「知らなかった」
「だから、今知らせたのよ」
「そ、そうか……」
俺の頭は、すっかり混乱しきっていて、何にどう対処していいのかまるで分からなくなった。
「私がこうして、告白をまごついているうちに、赤木くんは、気がついたら、知りもしない、女に世話を焼いて、挙句、学校でいちゃいちゃしているという話を聞いた」
「それはあなたが、悪いんじゃないの? 太一に告白しなかったから、私に取られたと」
「くっ、確かにそれはそうかもしれないわ。けど、私は許せなかった」
「許せなかった?」
葵が怪訝顏で返す。
椿は人差し指を突き出す。
「まず第一に告白をまごついて、みすみす人に渡ってしまうような、私の態度を!」
さらに中指をだす。
「第二に、控えめだとはいってもアプローチし続けた赤木くんが、まるで好意に気がつかないということ!」
「それは分かる」
葵が同意した。
「あ、分かってくれますかって、別に同意は求めていないのよ!」
さらに薬指まで出して、三本の指を突き出す。
「第三に、私から赤木くんを奪い取った小林葵という存在に!」
「ほう」
「だから、私は決めたの。態度をはっきり出して、小林葵に挑戦して打ち勝つ。そして赤木くんを取り戻すの! 私の赤木くんを!」
私のとか言われてるが、ここに俺の意思は存在していない。
付け加えて、葵と付き合っているわけではない。というか誰のものにもなってない。なったつもりもない。
「よかろう! 私の太一をかけてこの勝負、受けて立った」
葵が強キャラっぽく答えた。
景品は、俺らしい。らしいって言ったのは、今起こっている現実が受け入れられないからだ。そして、自分の意思が一切入り込むことができないことへの驚き。
「俺を巡って争うな」
「「あんたは黙ってろ!」」
「はい」
夜叉と、阿修羅がそこにいたわけで、俺に、この戦いに介入する余地は一切ないということを悟った。
「特典はどうする?」
「なら、太一君とのデート券をかけて、勝負を申し込む!」
「ならば、私に一つでも勝ってみせろ! それで私は負けを認めることにする」
「一つでもと言ったな。私をバカにしているのか」
「ふふ、天才の私に一つでも勝てるものが、あるというのか。何をやったところで貴様は私の前に跪く!」
葵は、これから負ける魔王っぽいこと言ってると思った。
「勝負は五本勝負。種目は君が決めていい。五本すべて私がとれば私の勝ちだ。一本でも君が勝てば君の勝ちだ」
「ああ、分かった」
俺の意思は関係ないということは、まあ置いておこう。
終わったらデートすれば勝ったほうとデートすればいいだけだ。そうなったらその時考えよう。うん。
断る権利は絶対にない。
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