総角 その二十九

 大君は何という世にもまれな悲しい自分の身の上なのだろうとどうしようもなくただ奥のほうを向いている。女房たちは、



「華やかな常の色の着物にお着替えあそばせ」



 などしきりに勧めて、誰も彼もみんな薫の君と結ばせるつもりでいるらしいのを、大君はつくづく情けなく思う。本当にあの人がその気になればどう防ぎようもないことだろう。場所も狭くてこうした住居ではどこにも身の隠しようもないという古歌の〈山なしの花〉のように逃れようもないのだから。


 薫の君はこうあからさまに誰彼にも口を出さずこっそりとことを運び、いつから二人の仲はそうなったのかとしれないようにしたいと初めから考えていたので、



「姫君がその気におなりでないならいつまででもこうしてお待ちしよう」



 と口にもしていたのに、この老女の弁は仲間と相談して人目も憚らずしゃべり合っている。何といっても根が浅はかなうえに年取って意固地になっているのか、これでは姫君たちが本当に気の毒なことだった。

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