総角 その十五

 薫の君は、



「これほどまで私をお嫌いになるのは何かわけがおありなのかと気がひけまして何とも申し上げようもありません。喪服の袖の口実になさるのは道理ではございますが、これまで長年見慣れてこられた私の心情をお分かりくださるなら服喪中にお会いすることをご遠慮しなければならない浅いお付き合いでしょうか。まるで今始まったばかりのお付き合いのように悪寒が二ならないでください。そんなふうに扱われるのはかえって水臭いお考えというものです」



 と言って、あの琴の音を聞いた有明の月夜のそもそもから折々につけてつのる恋心をおさえがたくなってきた過程を綿々と訴える。大君はそんなことまで見られていたのかと今更ながら恥ずかしく疎ましくてこんな下心を隠して今まで真面目ぶっていたのだとあれもこれも心外に聞いているのだった。

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