橋姫 その三十七

 その翌日、八の宮のいる山の寺にも見舞いを贈る。山籠り中の僧たちもこの晩秋の嵐にはさぞ困って心細がっていることだろうし、そうした八の宮の滞在中は僧たちにも何かと布施の必要もあるだろうと察して、絹や綿などもたくさん贈った。ちょうど八の宮の勤行を完遂して山を下りる朝だったので一緒に修行した僧たちへも綿、絹、袈裟、衣などすべて一揃いずつ大徳たちみんなに与えた。


 あの宿直の侍が薫の君が脱ぎ捨てて与えたあでやかで美しい狩衣や何とも素晴らしい白綾の着物などのなよなよと柔らかく、言いようもないいい薫りのしみついているものをそのまま着ている。しかし当人の身体は変わることができないものだから、似つかわしくない袖の香を会う人ごとに怪しまれたり、褒められたりするのがかえって身の置き場もない思いなのだった。そんな衣装を着たせいでその男はもう自由に気ままにふるまうこともできなくなってもう気味が悪いくらい人が驚き怪しむ薫りを消してしまいたいと思うが、あたりいっぱいあふれんばかりの薫の君の移り香なので、洗い捨てることもできないとは気の毒な話だった。

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