橋姫 その二十二

 薫の君はまだしばらく聞いていないので隠れていたが、隠しようもない薫の君の芳香を聞きつけて宿直の者らしい見るからに気の利かなそうな無骨な男が出てきた。



「これこれの次第で八の宮はただいま山の御寺にお籠りでいらっしゃいます。来訪のことを使者にやってお伝え申し上げましょう」



 と言う。薫の君は、



「いや、いい。そうして日を限って修行中にお邪魔するのはよくない。それより、こんなに夜露に濡れそぼってやってきて、宮にお目にかかれずに帰る辛さを姫君たちに申し上げて、可哀そうにとおっしゃっていただければ気もすむだろう」



 と言った。男は醜い顔をほころばせて、



「そのように申し上げさせましょう」



 と言って立ち退きかけるのを、



「ちょっと待て」



 と呼び止め、



「今まで人の噂ばかり聞いていて、いつかぜひお聞きしたいと思っていた姫君たちのお琴の合奏の音がしているようだが、ちょうどいい機会だ。しばらくちょっと隠れて聞けるような物陰はないものだろうか。不躾けに出すぎてお側近く行ったりする間にどちらもお弾きになるのをやめてしまわれたら、それこそ残念だからね」



 と薫の君は言うのだった。

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