紅梅 その十九

 宮の姫君からはほんの形ばかりの返事さえないので、匂宮は負けず嫌いの心がつのり、かえってあきらめそうもない。



「何の差支えがあるものか。匂宮のお人柄ならば婿君としてお世話申し上げたいような申し分のないお人だし、何の不足があろう。将来の望みも十分あるお人と思われるのに」



 などと北の方は時々考えることもある。しかし匂宮はとても多情な人で、通う恋人のところも多く、宇治の八の宮の姫君にもなかなかの執心で、足しげく宇治まで出かけているそうだ。そんな頼りがいのない匂宮の浮気っぽい性質なども気にかかり、いっそう気が進まないので北の方は本心ではあきらめているものの、相手が宮様なので畏れ多いというだけで、時折こっそり自分の一存でおせっかいにも姫君の代筆の返事を出しているのだった。

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