幻 その六

 そんなふうに光源氏から捨てられてしまうかもしれない悲しさを、めいめい口に出して言いたいのだが、そうも言いかねてただ涙にむせかえってしまうばかりだった。


 こんなふうにひたすら嘆き明かした曙や悲しい物思いに沈み込んだままで迎える夕暮などのしんみりとした折々にはあの格別に目をかけた女房たちを側近くに呼び寄せて光源氏はこうした話などをした。


 中将の君という女房はまだ小さいときから側近くに置いて召使になっていたが、どうしても見過ごすことができず、ごく内密に情けをかけたことがあったのだろうか。中将の君はそれを紫の上に対してとても気兼ねして申し訳ないと思い、光源氏に対してはそれほど深く親しまなかった。


 紫の上がこうして亡くなってからは色恋めいた対象ではなく、紫の上が生前他の誰よりもかわいがって目をかけていたと思い出すにつけて、紫の上の形見という意味で不憫に思って可愛がっているのだった。

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