御法 その三

 それでも紫の上がこんなふうに心細い容態で回復の望みも薄く病気が重くなっていくので、そんないたわしい様子を見ると、



「いよいよ自分が出家してこの世を離れようとするときには紫の上を見捨てられなくて、かえって出離後の山中の静かな隠棲にも心が濁るのではないだろうか」



 とためらっていた。


 その間にそれほど深い考えもないまま簡単に出家してしまった人々にはすっかり立ち遅れてしまいそうになる。また紫の上は、



「光源氏様のお許しがないまま自分の一存で出家するのも世間に対して見苦しいし、これまでの自分の気持ちにも反することだから」



 とこの件のために光源氏を恨めしく思っているのだった。また自身の前世の罪障が深いために出家もできないのではないかと気にしている。


 紫の上は長年にわたって自身の密かな発願として書かせた法華経千部を急いで供養する。自分の私邸と考えている二条の院でその供養の法会をするのだった。法会に参加する七人の役僧たちの法服などそれぞれ身分に応じたものを与えるのだった。

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