夕霧 その七十六

 紫の上に対しても、来し方行く末のことを考えて、



「こうして話を聞くにつけても私の死後のあなたの身の上が気がかりでならない」

 などと言うと、紫の上は顔を赤くして、



「まあ情けない。そんなに私を生き残らせるおつもりなのかしら」



 と思った。紫の上は続けて、



「女ほど身の処し方が窮屈で哀れなものはない。物の情趣も折にふれての楽しい風流な遊びもまるでわからないように、遠慮して引きこもってばかりで暮らすのだったら、いったい何によってこの世に生きる喜びを感じ、無常のこの世の寂しさも慰めることができようか。だいたい、世間の道理もわからず取るに足らないものとして扱われていたのでは丹精して育ててくれた親だってさぞがっかりすることだろう。言いたいこともすべて自分の胸一つに収めて、小法師たちがつらい修行の例にひく昔話のあの無言太子とかのように善悪のけじめもしっかりわかっていながらただ黙って過ごすのもまったくつまらない。私自身としても中庸を保って程よく身を処していくにはどうしたらいいだろう」



 といろいろ思案するものも今はただ自分が引き取って育てている明石の女御の生んだ女一宮のことを心配しているからなのだった。

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