夕霧 その七十二
雲居の雁は事実、憂鬱になって、
「すっかりお心も上の空で、誰かのことばかり思っていらっしゃるのだろう。もともとそうしたことになれていらっしゃる六条の院の女君たちの仲睦まじいのを何かにつけて立派なことの例の引き合いに出しては私を性格の悪い不愛想な女だと決めつけていらっしゃる。本当にやりきれないわ。私だって昔からそんな妻妾の多い暮らしに慣れていたならはた目にも恥ずかしいとも思わずかえって何とかうまく暮らしていただろう。みんながあの人を世間のお手本にしてもいい品行方正な人だとほめちぎり、そんな人と結婚したのを親兄弟からはじめて誰もがあやかりたいような幸福な夫婦のようにお思いなのに、長い間連れ添ってきたあげくの果てに夫の浮気でこんな外聞の悪い目に遭うのだろうか」
などととてもひどく嘆いている。
夜も明け方近くまで二人とも互いに打ち解けて話そうともせず、背中を向け合ったまま嘆き明かしてしまったのだった。
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