夕霧 その十六

 女二の宮が襖を抑えているのは何の役にも立たず、すぐ開けられるが、夕霧は引き開けようともせず、



「この程度の役にも立たない隔てさえ頼みになさり、無理にも私を拒もうとなさるお気持ちがお気の毒で」



 と笑い、それでもどうしようもない熱情のままの無体な行動はしない。襖の隙間からうかがう女二の宮の姿がやさしく気高く優雅でいることは世間の噂などと違い、何と言ってもやはり格別の人と見受けられる。


 前々からずっと心労で悩み続けているせいか、痩せに痩せて弱弱しくはかなしげな感じだ。くつろいだ普段着のままの袖のあたりもしなやかで着物に薫きしめられた匂いなど、何から何まで痛々しく可憐でふんわりした風情なのだった。


 風の声がとても心細く聞こえ、次第によるが更けていくさまは虫の音も鹿の鳴く声も滝の音も一つに入り混じってしみじみとした情趣をそそるので、ただ世間並みの無意味なつまらない者でさえ目が冴えて眠れそうもない空の風情なのに、格子を上げたまま月が山の端に沈みかけている景色は感傷の涙を止めようもないほど趣があるのだった。

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