夕霧 その十四

 まだ夕暮れなのに霧に閉ざされて部屋の内は暗くなった頃だった。女房があまりのことにあきれて後ろを振り返ったので、女二の宮もそれを見るなり本当に気味が悪く思い、北側の襖の外へ滑り出ようとするのを、夕霧はうまい具合に探り当てて引き留めた。


 女二の宮の体は襖の向こうへ出ていたが、着物の裾がこちらに残っていた。襖は向こう側には掛け金がないので、閉め切れなくて女二の宮は総身に水のように汗を流してわなないていた。


 女房たちも呆れ果ててどうしたらいいのか見当もつかない。こちら側からは掛け金もあるのだが、あちらからはどうしようもなく、そうは言うものの手荒に引き離したりすることも失礼でできない人なので、女房たちが、



「何という情けないことを。そんなお心とは思いもよりませんでしたのに」



 と泣かんばかりに言うが、夕霧は、



「この程度にお側に近寄ったくらいのことが人並み外れて疎ましく、許しがたい無礼者とお思いになるほどのことでしょうか。人数にも入らないものではございますが、私がお慕い申し上げている気持ちは積もる年月によくお耳になさっていらっしゃったでしょうに」



 と言い、いたって穏やかに落ち着いた態度で物静かに胸の思いを打ち明けるのだった。

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