横笛 その七

 若君はやっとよちよち歩きをする頃だ。あの筍をのせた漆器の高坏のほうへそれが何だとも知らないまま寄っていってむやみにせかせかと手当たり次第に筍を取り散らかしては乱暴にかじったり、荒々しく捨てたりする。光源氏は、



「何とお行儀の悪い。だめだめ。筍を片付けて隠しなさい。食い意地がはって賤しいなど、口さがない女房がいいふらすと困るから」



 と言って笑う。若君を抱えて、



「この子の目つきはどうも何となく意味ありげなところがあるようだね。こんな小さい子をあまりたくさん見つけないせいか、これくらいの子はただあどけないだけだと思っていたが、この子は今から他のこと全然様子が違っているのが心配なことだ。女一の宮もいらっしゃるこのあたりにこんな美男子が生まれてきてはゆくゆくどちらにも困った問題が起こってくることになりますよ。ああ、それでも私などはその子たちが大人になる行く末まではどうせ見届けられるはずもない。<花の盛りはありなめどあひ見むことは命なりけり>さ」



 と若君をじっと見つめながら言うのだった。

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