柏木 その六十

「今はどうか私を亡き人と同様にお考えくださってよそよそしくなさらず、お付き合いください」



 など夕霧はことさら色めいた様子ではないものの、こまやかに情を込めて何となく意味ありげに言う。


 直衣姿が実にきりっとして背丈がすらりと高く、堂々としている。女房たちは、



「あの亡くなられた人は何事につけてもやさしく優雅な上に上品で愛嬌があり誰よりも人をひきつける魅力がおありでした。こちらの夕霧の大将は男らしく快活で何と垢抜けてお美しいことでしょう。一目ではっとさせられるようなつややかなお美しさがどなたとも違っていらっしゃるわね」



 と囁き合って、



「どうせならこんなふうにでもこちらにお通いくださるようになればいいのに」



 などと話し合っているようだ。



<右将軍が塚に草はじめて青し>



 と故人を惜しんだ人の詩を夕霧は口ずさむ。この詩は右大将保忠の死を悼んだもので、その死もあまり遠い昔のことではないのだった。

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