柏木 その三十一

「その時以来、心が惑乱し始めてあげくのはて、こんなふうにどうにも静まらなくなってしまったのです。光源氏様は私のことなど人の数にも入れてくださらなかったのでしょうが、私のほうは幼い頃から深くお頼りする気持ちがありましたのに、どうやら何か中傷されたのかと思います。これだけが死んでもこの世に恨みとして残るだおると思いますので、それがきっと私の後生の妨げにもなるでしょう。そんなわけでどうかこのことをお忘れにならず、何かのついでの折に光源氏によしなに釈明しておいてください。私の死後にでもこのお咎めが許されましたなら、あなたの御恩と感謝を申し上げましょう」



 と話すうちにますます苦しそうな様子がひどくなったので、夕霧はたまらなく悲しくなった。心のうちにもしかしたらとあれこれ思い当たることなどもあるにはあったが、はっきりしたことは推量しかねているのだった。

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