若菜 その三一二

 そうはいっても急にひどく危険な状態になるという容態でもなく、ここ幾月食事もなどもほとんど食べなかったのに、大臣邸に移ってからはいよいよちょっとした蜜柑などさえも手を触れようともしない。ただもう次第次第に何かに引き入れられるように衰弱していく。


 柏木のような当世有数の学識豊かな人物がこんなふうに重態になったので、世間では惜しんで残念がりお見舞いに来ない人もない。


 帝からも朱雀院からも度々お見舞いの使者がみえて非常に惜しんで案じているにつけても、いよいよ両親の悲しみは深まり心も迷うばかりなのだった。


 光源氏もまったく残念なことになったと驚き、度々丁重にお見舞いの手紙を病人のみならず父大臣にもさしあげる。


 夕霧は誰にもましてとても睦まじい間柄だったので、親しく病床まで見舞って、身の置き所もなく悲しみにくれて落ち着かないのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る