若菜 その三〇九

 何事もなく過ごしてきたこれまでの歳月は暢気に構えて情の移らない夫婦仲も裂きで何とかなるだろうと空頼みしてそれほど落葉の宮を愛していなかったのに、さて、これが永久の別れの門出になるのかと思うと身にしみて悲しく、自分に先立たれて北の方が悲しむのは畏れ多いことだとたまらなく辛く思う。落葉の宮の母御息所もとても激しく嘆き、



「世間の例から言っての親は親として立てておいてまず夫婦の仲というものはどんな時もこんな時も決してお離れにならないのが当たり前でしょうに。こんなふうに二人引き裂かれてすっかり全快なさるまで長い間、あちらのお邸でお過ごしになるのは心配でたまらないことでしょうから、もうしばらくこちらでこのままご養生なさってみてください」



 と病床の側に几帳だけを隔てて看病するのだった。

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