若菜 その二九三

 紫の上の大病などで山にいる朱雀院の五十の御賀の催しも延び延びになり、秋ということだったのに八月には夕霧の母葵の上の忌月に当たるので、音楽の準備などをするのは不都合だ。九月は朱雀院の母弘徽殿の大后の亡くなった月なので十月のつもりでいたところ、今度は女三の宮がひどく患ったのでまた延引となった。


 柏木の北の方になった落葉の宮だけが十月には山へお祝いに出向いた。舅の前の太政大臣が万事お世話して盛大ななかにもこまやかに配慮して儀式はきらびやかに格式高く行われた。柏木もその機会に無理に気を張って出席した。しかしその後もやはり気分がすぐれず病気がちに過ごした。


 女三の宮もあれから引き続いて肩身が狭く気後れしてただもう悲しくて悩みのうちに沈んでいるせいだろうか、月が多く重くなっていくにつれて身重の体がいかにも苦しそうに見える。


 光源氏はその様子を見るにつけて例の過ちをうとましく思うが、一方ではいかにも痛々しくか弱い姿でこんなにもいつまでも苦しんでいるのをどうなることかと心配で何かと悲しみ、心を砕いている。祈祷など今年は何やかやと取り込みが多く、忙しく過ごすのだった。

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