若菜 その二二三
紫の上は今年三十七歳になった。これまで一緒に暮らしてきた年月のさまざまのことなどもしみじみとなつかしく思い出すついでに、
「当然必要な祈祷など今年は厄年なので例年より特別になさって用心なさい。私は年中何かと忙しく取り紛れていて気のつかないこともあるでしょうから自分でいろいろ考えておおがかりな法要でもなさるならぜひ私にさせてください。こんな際、あの北山の僧都が亡くなられてしまったのが本当に残念ですね。何かにつけて祈祷などお願いするのにも実に頼りになるお方だったのに」
など話し出す。
「私自身は幼い時から人とは異なった運命で特別の扱いを受けて宮中で育った上で現在世の中の声望や日々の栄華をほしいままにしていることなども過去にそんな例もないほどでした。けれどもまた、世にも珍しいほど悲しい憂き目を見た点でも人後に落ちないでしょう。まず第一に可愛がってくれた人々に次々と先立たれ生き残ったこの晩年になっても不如意で悲しいことばかり多く、思い出しても味気ない不都合な事件にかかわるにつけても妙に悩みが絶えず、いつも不本意な思いがつきまとったまま、これまで過ぎてきたのです」
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