若菜 その一八〇

 今度は明石の入道の願ほどきという趣旨は表向きにはせず、ただ自分の参詣ということにして出発した。


 あの浦伝いに須磨、明石と流浪したころに立てた多くの願はすでに皆願ほどきは済んでいたが、その後もこうして世に栄えており、このような東宮や女御たちの栄華を極めたのを見るにつけても、住吉の神の加護は忘れられず、紫の上も一緒に連れて参詣するのだった。その噂に沸いた世間の騒ぎといったら一通りではない。できる限り万事質素にして、世間の迷惑にならないようにと簡略にさせたが、身分が身分なので格式に決まりがあり、またとなくきらびやかなこととなった。


 公卿も二人の左右大臣以外は残らずお供した。舞人は衛府の次将たちの中から容貌の整った上に背丈の揃った人ばかりを選んだ。この選に洩れたのを恥として悲嘆にくれている芸熱心の者も大勢いる。楽人も石清水八幡宮や加茂神社の臨時の祭などに奉仕させる人々の中から、それぞれの楽器に特に優秀な者ばかりを揃えた。それを臨時に加わった二人の楽人は近衛府の評判の高い名手ばかりを呼んだ。神楽のほうにはとても大勢にお供が来たのだった。

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