若菜 その一四九

 猫はまだよく人に懐かないのか、とても長い綱をつけていたが、それがほかのものをひっかけて巻き付いていた。逃げようとして猫が引っ張るうちに御簾の横裾がまくれあがって、内部が丸見えになるくらい引きあけられてしまった。すぐにそれを引き下ろそうとする起点のきく女房もいない。その柱の側にいた女房たちも気が動転している様子で、ただおどおどしているばかりだ。


 几帳の際から少し奥まった辺りに袿姿で立った人が見える。そこは階段から西へ二つ目の柱間の東の端なので隠れようもなくありありと見通せる。紅梅襲だろうか、濃い色薄い色を次々に幾重にも重ねたものが色の移りも華やかにまるで草子の小口のように見える。上に来ているのは桜襲の織物の細長なのだろう。髪の裾まで鮮やかに見える。髪は糸をよりかけたように後ろになびき、その裾がふっさりと切りそろえられていて、とても可愛らしい感じがして、身の丈より七、八寸ばかりも長いのだった。

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