若菜 その一三〇

 光源氏はそれまで女三の宮のところにいたが、境の襖からいきなりこちらにやってきた。とっさのことで、明石の君は明石の入道の手紙を隠すことができず、几帳を少し引き寄せて自身もその陰に少し隠れた。光源氏が、



「若宮はお目ざめかな。少しの間でもお顔を見ないと恋しいものだから」



 と言い、明石の女御は返事もしないので、明石の君が、



「紫の上にお渡しなさいました」



 と言った。



「それは怪しからん。あちらでは若宮を独り占めにされて紫の上は懐から少しも放さずあやしていらっしゃるので、着物に皆おしっこをかけられ、しょっちゅう着替えているようですよ。どうしてそう軽々しくお渡しになるのか。あちらからこちらへ若宮を拝見に来ればよいのに」



 と言うのだった。

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