若菜 その一二〇
「私の死ぬ月日など、決してお心におかけくださいますな。昔から親の死の際に着る喪服の藤衣など、どうして着る必要がありましょう。ただ自身を仏心が変化してこの世に現れたものとお考えになって、この老法師のためには功徳になることをしてください。この世の楽しみを味わっている時にも、後世のことをお忘れにならないように。いつも願っている極楽にさえ私が行っておれば、必ずまたお会いすることもできましょう。この娑婆の外にあるあの彼岸にたどり着いて早く再会しようとお思いください」
と認めて、あの住吉神社に立てた数々の願文などをすべて大きな沈香の木で造った文箱に入れ、しっかり封をして明石の君に贈った。
尼君には別に詳しく書かず、ただ、
「この三月の十四日に草の庵を出て深い山奥に籠ります。生きていても役に立たないこの身を熊や狼にでも施してやりましょう。あなたはなお生きていて望み通り若宮の御代になるのを見届けてください。極楽浄土でまたお会いしましょう」
とだけ書いてあるのだった。
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