若菜 その八十六

 光源氏は女三の宮の方へ行き、



「夕方、東の対におります紫の上が明石の女御にお逢いするため出かけてくるのですが、そのついでにこちらにもお近づき申し上げたいと言っております。お許しになってお話し合いをしてやってください。紫の上は性格のとてもいい人なのです。まだ若々しくて、遊び相手としても不似合いではないでしょう」



 などと言う。女三の宮は、



「恥ずかしいこと。何をお話したらいいのかしら」



 と、おっとりと言う。光源氏は、



「お返事というのは相手の言うことに応じてお考えになればいいのです。他人行儀な扱いはなさらないように」



 とこまごまと教える。


 光源氏は女君二人が仲睦まじく暮らすようにと念じている。あまりにも無邪気な女三の宮の様子を、紫の上にはっきりと見られてしまうのも、きまりが悪く恥ずかしいが、せっかく逢いたいと言うのを邪魔立てするのも具合が悪いと思うのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る