若菜 その三十五

「私の命も今日か明日かと思いながら、何とか月日が経ちましたが、それに気を許して深い出家の念願も片端も果たせずに終わるのではないかと、気持ちを奮い立たせて決行したのです。それでもこれから先、余命がそうなければ仏道修行の志もたいして果たせないでしょうが、まあ一時にせよ、出家の功徳でゆとりを作っておいて、せめて念仏だけでもと思っています。頼りない病弱な私がこれまで何とか生きながらえているのは、ただこの切願だけに引き留められてきたのだということもわかっているつもりですが、これまでお勤めを怠ってきただけでも、気掛かりでならないのです」



 と言い、かねて考えていた後々のことなどを、詳しく話すついでに、



「姫宮たちを幾人もあとに残して捨てていくのが可哀そうで辛いのです。その中でも、他に世話を頼む人のいない姫宮のことが、とりわけ気掛かりで苦に病んでいます」



 と、はっきりとは女三の宮との縁談を切り出せない様子を、光源氏は気の毒に思うのだった。

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