藤裏葉 その四十

 十月の二十日過ぎの頃に、六条の院に帝の行幸があった。紅葉の盛りで興趣も不快に違いない行幸なので、帝から朱雀院にも誘いがあって、朱雀院までも来ることになった。こんなことは世にも珍しい、またとはない盛儀だというので、世人も心をときめかしている。主人側の六条の院でも趣向を凝らし、目もまばゆいばかりの支度をしていた。


 午前十時頃、六条の院に行幸があり、まず東北の町の馬場御殿に入った。左右の馬寮の馬を引き並べて、左右の近衛府の武官たちは並び立った作法は、五月の端午の日の競射の儀式と見違えるほどそっくりだった。


 午後二時過ぎには、南の町の寝殿に移った。通り道の反橋や渡り廊下には錦を敷き、外からあらわに見えそうなところには絵を描いた絹の幔幕を引き、物々しく設営されていた。


 東の池に船を幾艘か浮かべて宮中の御厨子所の鵜飼いの長と、六条の院の鵜飼いとを一緒に呼び、池に鵜を下ろして使わせる。鵜が小さな鮒などを幾匹もくわえてみせるのだった。

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