真木柱 その三十二
姫君はいつも自分が寄り掛かっている東面の柱を、これからは他の人に渡してしまうような気がするのも悲しくてならない。姫君は檜皮色の紙を重ねたのに、ほんの小さく歌を書いて、柱の乾割れた隙間に、笄の先で押し込んだ。
今はとて宿離れぬとも馴れ来つる
真木の柱はわれを忘るな
と、これだけでさえ、悲しさのあまりなかなか書ききれないで、泣き出してしまう。北の方は、
「さあ、さあ、そんなことを言っても」
と言って
馴れきとは思ひ出づとも何により
立ちとまるべき真木の柱ぞ
と続けるのだった。
側の女房たちも、いろいろと悲しくて、日ごろはそれほど気にも留めなかった庭の草木まで、これからは恋しく思い出すだろうと、名残惜しそうに見つめては、涙の鼻をすすって、嘆きあっている。
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