藤袴 その九

 夕霧は少し笑って、



「浅いか深いか、あなたはおわかりのはずだと思います。ほんとうは畏れ多い宮仕えのお話を伺っていながらも、抑えきれない私の恋の思いを、どうしてあなたにわかっていただけるでしょう。口に出せばかえって嫌われるだろうと、それがつらくて、懸命に心の中に封じ込めておいた切ない思いですが、<今はた同じ>の歌のように<身をつくしても逢はむとぞ思ふ>の心境で、悩み苦しんでいるのです。柏木の頭の中将の様子にお気づきでしたか。あの頃、どうして私はあの恋心を他人事などと思っていたのでしょう。自分の恋に気づいた今では、まったく自分の身の愚かさもわかり、また頭の中将の心情もつくづく思い知らされるのでした。あちらは実の姉弟だったとわかってからは、かえって熱が冷めて、結局、姉弟の縁は生涯切れないことを頼みにして、気分を慰めているらしいのも羨ましく、妬ましいものです。こんな私をせめて可哀そうにとでもお心にかけてください」



 など、綿々に訴えたが、そんなことをくだくだ書くのもどうかと思うので書かない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る